【ブログVol.41】MTA(アベイラビリティ保証の見込生産)の境界

この記事では、高いアベイラビリティの保証が理に適っているのはどういうときか示すことに焦点を当てたい。そのために提案されたソリューションの基礎になる主な考え方(知見)は前回の記事で述べたとおりです。

在庫の管理は常に品目(アイテム、品物、商品…)ごとの需要が将来いくらいくらあるという予測に基づいています。しかし、その前提にしても、確定した注文無しに製造または購入するリスクを負うのにはそれなりの理由があるはずです。可能性が高そうな理由を挙げるとすれば次のとおりです:

  • 空きのキャパシティがあれば、大抵は、見込生産で短期的に稼働率を上げたくなる。
  • 今でないとこの先得られないコスト面の即時的アドバンテージがある。
  • 売るには在庫が絶対必要。しかし、完璧なアベイラビリティまでは約束しない。
    • なぜなら、そんなに多く在庫抱えるのは経済的でない。
    • 実際、顧客は特定の商品の完璧なアベイラビリティは期待しないし、代替品か別の入手先を見つけるのは容易である。
  • 現実にニーズがあるので、継続的な目標として高いアベイラビリティを維持する

MTA(Make-to-Availability)が有効である境界を決める前提条件として、重要な3つのカテゴリを挙げると次のとおりです:

  1. 高いアベイラビリティを保証することに高い付加価値がある。
    • そうでないなら、在庫を少なくして、ある程度欠品を許すか、欲しいものを注文できる手段を提供すべきだ。
  2. 当分特定の品物に継続的な需要がある。
    • 全体として十分大きな需要があり、多くの顧客に売れる標準品
    • または、十分大きく比較的安定した需要がある特定顧客向けの品物。
    • または、一定量の在庫の維持費を顧客が負担する約束になっているもの。
    • 製造現場で多くの完成品に使われる中間部品で、累積的な需要が継続的にあるもの。
  3. 在庫維持のROIが十分高いと考えられる。

高いアベイラビリティの保証が、どういうときに経済的に理に適っていて、有望な見込み客にとっての真の価値を生み出し、コストはそれほど高すぎないかは、結局上記の条件で決まります。技術的には、前回の記事で挙げた基礎の考え方(知見)を使えば、どんなものでも高いアベイラビリティを保証するのは可能ですが、最終損益は悲惨なものになるでしょう。

アベイラビリティを保証するアイテム個別のコストを見積もる際は、他の商品(アイテム)の売上への影響も計算に入れなければなりません! アイテムの数は少数ですが、それが不足すると他の商品の売上もダウンするような重要なものがあります。その他は、代替になる類似品があって、欠品してもダメージが軽いものです。異なるSKU(最小在庫管理単位:Stock-Keeping Unit)間のこういう依存関係は、通常、直感的には認識されていていても、コンピュータ化されたどのデータにも含まれていません。たとえそうだとしても、アベイラビリティを保証するアイテムはどれで、それ以外はどう扱うかを決める全体戦略の検討にはその情報を考慮しないといけません。

将来の需要が比較的安定しているという、2番目の条件は、常に慎重に確認しないといけません! ほとんどの場合、需要は徐々に下がるものですが、時として非常に速くゼロになることがあります。ですので、補充の停止が本当に緊急な場合もあります。需要の急な変化は、DBM(動的バッファ管理)の早期発見能力を超えているのです。そこがまさに、人間の直感と知性でガードしないといけないところです。

では、ROIの観点からを詳しくみてみましょう。

優れたアベイラビリティを維持するための投資は、在庫バッファを構築し維持するに必要なコストです(注:キャパシティについては後で述べる)。これは固定的な投資です! 売れたらその分バッファを補充して、在庫バッファを一定に保たないといけません。ですから、時間が経過しても投資は下がりません。

在庫バッファのコストは、フルサイズのバッファのTVC(真の変動費:Truly-Variable-Costs)に基づいて計算します。また、在庫のサイズに応じて見込まれる陳腐化もコストに含めないといけません。これは消費期限の短いアイテムでは特に重要です。

投資収益率(ROI:Return On Investment)は、売上収益ではなく、年次のスループット(Tから計算します。投資を補填するには、売上収益から在庫バッファのTVCを賄わなければなりません。

したがって、アベイラビリティを保証するアイテム個別のROIを分析するのに重要な指標は下記のものです:

年次のスループット(T  在庫バッファを維持するにかかる全コスト

上記の公式は、ひとつのSKU単体のROIを計算するのに使えるだけでなく、アベイラビリティを保証するすべての製品ミックスのROIを計算するにも使えます。

単体のROIが低すぎる商品は、別の売り方を探した方がよいかもしれません。売れ行きの良い商品は、売上が比較的安定するお陰で、売上高の割には在庫バッファが小さくて済むので、ROIが高いのが普通です。逆に、売れ行きの悪い商品は、通常、売価に対するスループットは大きいのですが、販売が散発的で売上高の割には大きな在庫バッファが必要です。多くの場合、売れ行きの悪い商品は、おそらく、注文販売で対応するのがよいと思いますけれども、十分な売上を確保するには製造リードタイムを短くしないといけません。

クリティカルなリソースのキャパシティも、もう一つ別の種類の投資です。流通業ではスペース(場所)が重要で、特に小売りでは在庫に投資する資金もクリティカルなキャパシティです。キャパシティ不足で製品ミックスにトレードオフが存在する場合は、アイテム個別のROIによる相対的な優先度が重要になります。必要なすべての在庫バッファを維持するに十分なキャパシティがあるのであれば、キャパシティへの投資は「ただ」と思ってよいのですが、トレードオフがある場合は、全体としての純利益(総スループット(T) - 総業務費用(OE))とROIが最大になる最善の製品ミックスを見つけなければなりません。つまり、製品ミックスを全体から捉えるホリスティックな観点が、組織全体としての戦略の要になります。

全商品を対象にして高いアベイラビリティを保証するのが理に適っていることは極めて稀です。つまり、アベイラビリティを保証して売る商品もあれば、時には見込生産で売るもの、注文生産で売るものもあるということです。そして、アベイラビリティを保証しない在庫の管理については、もっとそれに適すメカニズムの検討が必要なことに変わりありません。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: The Boundaries of Make-to-Availability

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/