【ブログVol.68】TOCは輸送機関のためにどんな貢献ができるだろうか?

業務のオペレーションに関する現在のTOCの方法論の根底には、使用可能なキャパシティは一箇所にあるという基本的な仮定があります。つまり、リソースは移動しないことになっています!

この仮定は、もちろん、輸送あるいは交通機関には無効です。 ここで「使用可能なキャパシティ」と言うには、次の2つの情報が必要になります: 

  1. 使用可能なキャパシティが、適切な時間の枠内で指定された出発点の十分近くにあるか?
  2. どこに、どれくらいの時間で行くのか? いつもの場所に戻るついでに、目的地付近から何か運べる可能性はあるのか? いつもの場所で次に使えるまでにどれくらい時間がかかるか?

これらの追加情報は、TOCがこれまで貢献してきた環境と、輸送あるいは交通ビジネスの違いを区別するものです。タイムリーなキャパシティの供給が不十分なせいで機会損失を被ると同時に、地理的に広く分散した場所に依存するせいで、車両や輸送手段の有効利用が妨げられます。車両その他輸送手段はどれも高価であることを考えると、輸送事業成功のカギは、使用可能なキャパシティのためにより多くの需要を見つける努力です。

TOCの観点からすれば、空いているキャパシティが沢山あるにもかかわらず、車両が組織の内部制約になっているということなのです。

そもそも、A地点からB地点に人または物を運ぶサービスは単純です。また、車両、運転手、時には乗員とターミナル内の全員といった具合に、同時に複数のリソースを必要とします。その支援業務には、車両の運行とメンテナンスの計画、受注と集金があります。

ここで問題を単純化する重要な因子は、車両間に直接的な相互作用が何もないことです。  

したがって、車両それぞれの運行を最大活用することが重要な経営課題です

そこで、我々は車両11台が独立した制約と見なすことができます! つまり、ある車両を最大活用することが他の車両の活用を犠牲にすることはごく稀にしかありません。

果たして輸送会社は単体の制約を最大活用しているのか?

私は以前の記事で、簡単に言うと動的な価格設定を用いてフライト1回1回(ミクロ制約)を最大活用する方式である「イールドマネージメント」(または収益管理)と呼ばれる航空会社が使っている最大活用の方法を紹介しました。イールドマネージメントの方向性は全般的に正しいのですが、それを航空会社は必要以上に極端な使い方をして、「ノイズ」に隠れて見えないところで収益を最大化しようとしているのです(私には気の毒に思える)。

しかし、A地点からB地点へのフライトまたは何かの輸送を最適化しても、必ずしも飛行機や車両のキャパシティを最大活用することにはなりません! そもそも、その飛行機や車両が一定の期間で実際何回輸送したかが見逃されているのです。

ほとんどの輸送会社での重大な間違いのあるパラダイムは、キロメートル(またはマイル)当たりの全コストが、個々の輸送が儲かるかどうかを決める唯一重要なパラメータであるという考え方です。だから、1キロメートル走る毎に必要なコストを賄わなければならないのです。そのコストには、1キロメートル走るに必要な真の変動費(TVC:Truly-Variable-Costs)(主に燃料費)だけでなく、車両に配賦された固定費、特にその車両の購入費が含まれています。

このパラダイムだと、顧客負担の移動でない限り、間違いなく車両を空で走らせることはなく、車両を止めたままにしておく方を選びがちで、おいしい商談でも断ることになるでしょう。

ここでひとつ例を考えましょう: A地点からB地点への配送依頼があったとします。それを担当した車両はA地点にどうやって戻るべきだろうか? 分かり易い望みは、別の配送依頼を探して、帰りの費用を賄うことです。そのチャンスがわずか24時間後にあるとしたらどうなりますか? 確実に24時間その車を遊ばせておきますか? キロメートル当たりのコストは、遊ばせておく経済性については何も言ってくれません

スループット経済学を用いて運送事業を計画するのが、TOCのソリューションです。つまり、何はさておきまず、移動全体の実際のスループット(T)を計算するということです。それでキロメートル当たりの全TVCを賄わなければならないのは当然です。

輸送1回当たりのTは、車両単位に週間や月間など一定期間のトータルTを計算する方向に会社を変えるに違いありません。なぜなら、経営のフォーカスは、車両すべてで月間のトータルTを最大化することのはずだからです。

ある車両-Xが生み出す翌週のTの目標を立てるには、車両が空いた瞬間から場所と時間を考慮に入れて様々な選択肢を調べることも必要です。Tの高い商談があって、その車両がA地点でその商談で使えるように、空でも帰らないといけない場合もあり得ます。

動的な価格設定は、潜在的な顧客が時間に十分余裕を確保してプランナーに高い柔軟性を与えたくなるような使い方をすべきです。顧客が指定するサービスの提供タイミングが、時間的に自由度が高いか非常に限定的かによって、価格差を設けるべきです。もちろん、緊急なサービスの価格は高くして当然です。

このフォーカスの違いが、もっとうまく制約を最大活用する方向に導くに違いありません。

しかし会社は、さらに従属の仕方(訳注:「5段階集中プロセス」の第2ステップ)を理解して実現する必要があります。たとえば、乗せたり降ろしたりに長い時間をかけ過ぎて、有望な仕事や顧客を失うかもしれません。人員の追加で乗せる時間を大幅に短縮できると仮定しましょう。人員の追加で業務費用が増加します(ΔOE)。そこであなたに質問です: 時間の短縮でスループットの増加ΔTを業務費用の増加ΔOEより大きくできますか? (訳注:純利益 = ΔT - ΔOE)

サウスウエスト航空は、ここにフォーカスしたことで、とても成功しましたよね? 運用の柔軟さを活かして、制約である一機一機の航空機の最も効果的な運航に上手に従属しました。たとえば、同じタイプの航空機を使えば、パイロットの柔軟な使用が可能になります。それは効果的な従属のほんの一例です。

TOCに従って戦略を構築するには、十分大きな市場セグメントをターゲットにした、独自の価値という形の決定的な競争力(DCE:Decisive-Competitive-Edge)を組み込まなければなりません。一般的に言えば、どの輸送企業も、成功のカギを握る下記の価値を顧客にどうやって提供するか四苦八苦しています:

  • 輸送のタイミングと安全性の取り決め両方に対する信頼性
  • すべての要求に対する素早い対応

この約束を果たす難しさは、需要が一箇所で一時的に集中したとき、そのピークを凌げるだけのキャパシティの余裕が十分ないことです。重要顧客に対する約束の上手なバッファリングを含めて、車両など輸送手段のプールの活用を改善すれば、信頼性と対応の高速性が向上するでしょう。

輸送サービスには次の2つの提供形態があります:

  • 行きA→Bと帰りB→Aのルート固定の輸送スケジュール。途中で複数の個所に立ち寄っても可。たとえば、列車、飛行機、船はこの類。この方法は、高い信頼性を提供できるが、高速な対応やタイミングの調整はできない。主な課題は、車両当たりのTが最大になる固定のルートとスケジュールの設定である。
  • 柔軟なルートの輸送スケジュール。たとえば、タクシーやトラック。

全面的に優れた戦略は、競合他社と連携してより良いサービスを提供することです。航空会社は、1社では完全に提供できないルートの間で相互に乗り換えられるよう、ある程度の連携はしています。また彼らは、フライトがキャンセルたれた乗客のためにバッファを提供し合う連携もしています。

戦略的な付加的連携で、多くの輸送企業の業務が大幅に改善し得るというのが私の私見です。たとえば、A地点にある会社は、B地点にある会社と連携すれば、車両を確実に早く帰すことができます。 車両毎の週当たりTを上手にコントロールすると同時に、顧客が本当に望むニーズに応えれば、変化に寛大な組織には非常に本質的な経営改善になるはずです。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: What TOC can contribute to a Transportation Organization?

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/