【ブログVol.73】CEO個人としての課題

記事の説明:この記事は、タイトルのテーマに関してTOC分野で著名な人々と何回か議論して書きました。主な議論はRay Immelman氏が主導しました。

組織をどう経営すればよいか理解するには、組織の責任者である代表取締役社長あるいは最高経営責任者(CEO)の個人的側面まで考えなければなりません。つまり、CEOは組織の好ましくない結果(UDE:Undesired Effects)の影響に染まるとしても、自分の興味と願望、さらに自尊心を持つ個人としてのCEOを見なければなりません。

様々な規模の組織があり、様々幅広い人格のCEOがいることを考えると、その人にどんな資質が必要か我々に分かるでしょうか?

そもそも、組織の将来、株主と従業員に対する責任を取るに相応しい人は、それができると思う自信が十分ある人だけです。実際、一人ひとりのCEOは、その自信を常に行動で示さないといけないし、それにはいろいろ自己統制が必要です。

私は、多くのCEOには、すべきことが十分明確に分かっている人という外見にうまく隠した不信感や不安があると思っています。

どのCEOにもある課題は、組織、利害関係者、顧客、そしてサプライヤーの本質の複雑さを掌握することです。その複雑さに加えて、相当な不確実さが存在します。 さらに、この複雑性と不確実性が組み合わさって、「何を変えるか?」と「何に変えるか?」という2つの重要な質問にCEOがどう答えるかを左右します。また、この複雑性と不確実性への対処だけでなく、すべてのCEOは、組織内部の対立、CEOと株主の対立を解決しなければなりません。その対立は、上記の2番目の質問の答えとして提案された変化(変革)を実現するのを邪魔する障害になり、今度はその障害を克服するのに「どのように変化を起こすか?」という、第3の本質的な質問が提起されるのです。

すべてのCEOの最初の重大な個人的ジレンマは、先の3つの重要な質問に答えるのが難しいことと、実際の結果を見て取締役会、株主、株式市場のアナリストがその結果をどう評価するかということに由来しています。一見して避けられそうにないのは、起きそうな被害は小さくても、ひどく非難される可能性を恐れて、CEOが一切リスクを取ろうとしないことです。複雑性と変動性を考えれば、可能性の高い成長に必要な限定的なリスクさえ取ろうとさせないほど、CEOへのプレッシャーは非常に高いのです。

これは、「リスクを取る」対「リスクを取らない」という一般的な対立の中では、組織としてはリスクを取る方に関心があっても、CEOの方は、潜在的な個人的ダメージを恐れて、そういうリスクを取らないことにするということです。

CEOの対立(ジレンマ)を分析するなら、リスクを取らないリスクも考えないといけません。とにかく株主は業績の改善を期待するし、CEOは、彼らとの対立を解消するために一定の改善を約束しなければならず、彼はその期待に沿って評価されることになります。かといって、あまり驚くような結果を出すのも、株式市場の期待感が高くなり過ぎて危険に思えます。しかも、組織にとっての脅威は他にも沢山あり、それにうまく対処しないとCEOにも害が及びます。そのように、殆どすべての動きに細心の注意を払って行動しなければならなくなるとしたら、不確実性とリスクの対処に秀でたTOCには、潜在的なチャンスが高くなるということです。

複雑性と変動性の組み合わせが本質的なシンプルさに導くというのが、TOCの肝になる洞察です。そのシンプルさの本質は、ノイズ(つまり変動)を下回る効果しかないアクションは、結果がプラスだったとは結局言えないということです。つまり、より有意義なアクションだけにフォーカスしようということになります。また、そのシンプルさは、潜在的に悪い面を抑えて良い面を助長するような、より大胆なアクションを取る決断の助けになります。変動を小さく抑えて、オペレーションのフローを改善し、スループット経済学と強力な因果関係の分析により、本当の財務的効果をチェックするという、TOCの洞察を組み合わせれば、全体的により安全な環境を構築できます。

しかし、リスクを取るかどうかだけがCEO個人に特に影響を及ぼすジレンマではありません。CEOは、厳しい非難に晒されるのが非常に怖い一方で、何かで大成功して自分の手柄にしたいのです。そこでジレンマが生じるのは、成功するためには自分以外の人々の積極的な参加と相当なインスピレーションが必要なときです。その人々が、コンサルタントのように組織の外部の人間だと、さらに顕著に現れます。既存のパラダイムへの挑戦はTOCのパワーそのものですが、それでTOCコンサルタントの方に光が当たり、リスクを取ったCEOから栄光が奪われ、成果を全部一人占めできないかもしれません。

突然ある人が自分の考え方を変えたら、周りの人々はどう反応するでしょう? もっとずっと早く変えられなかったのか、あるいは簡単に他人の影響を受けすぎだと言って、そういうマネージャーを非難するのが容易で自然ですよね?

実は、このジレンマは、組織とCEOの間、さらに他の経営幹部との間のWin-Winを実現しようと思うと、解消するのは困難に思われます。過去の考え方が如何に間違っているかを強調すれば、マネージャーのジレンマはより深くなります。人には過去の過ちを認めたくない理由があります。それによって自信が損なわれ、無能さが知れ渡ります。それは、おそらく間違った印象だが極めて普通です。もちろん、対立の反対側には、過去の過ちを認めない潜在的なダメージがあります。

マネージャーに本当は彼らがよく分かっていないと認めさせるために、TOCではかつて、私が開発したOPTゲーム(OPT Game)とゴールドラット・シミュレータ(Goldratt Simulators)を使っていました。これは「わーっという驚き」を誘うには非常に効果的でした。けれども、それらのマネージャーが経験した屈辱を見ると、非常に強い個性を持つ人にしか役に立たないことを示していました。誤った概念の実証実験(proof-of-flawed-concept)に口では同意しても、相変わらず昔のやり方を続けるマネージャーがあまりに多かったのです。

そういう強烈な個性を持つCEOであれば、自分の過ちを認めて、正しい軌道に乗せるに必要なことは何でもやれるはずだと、私たちは思っています。個人的な利害ではなく、完全に組織のために行動するCEOに私たちは期待します。この挑戦を本当に受けて立てる者はごく少数です。多くの人々は、この「エージェント」問題をうまく処理するには、高い成功報酬しかないと思っています。しかしそれは、個人対組織の対立の正当化にしかならず、CEOに組織の脆弱性を増大するような大きな危険を犯させかねません。

となると、我々はCEOが両方のジレンマを解消できるように助ける必要がありそうです。そのために私たちは、成功へのCEOの貢献度を高めなければなりません。そして、最悪でも今よりずっと良くなり、極めて大きな価値をもたらすと私たちが信じる変化を実行した結果どうなるか、組織的にも個人的にも、まったく未知であることへの恐れを軽くしなければなりません。

私が理解した限りでは、「悪い点」に対するプレッシャーを低くして「優れた点」を増やすには、過去に人々が学んだものをすべて捨てる革命よりも、それらを改善することだと思います。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: The personal challenge of being a CEO

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