【ブログVol.95】経営上の必要性と「掌握できている」ような錯覚

2017年7月6日
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不確かな状況に居るのは怖い。私たちは、莫大な労力を注いで、未来を予想し、可能な限り本当に悪い結果を避けようとしています。人は、迷信を使って、確かな未来を描いて、きっとそう酷いことにはならないはずだと思い込もうとします。また、統計を用いてその恐怖を和らげ、少なくとも、その真相を大局的に整理しようとしている人々もいます。

「掌握(コントロール)できている」というのは、まずまずの確度で将来がどうなるか予測できている、ということです。定義によっては、システムを「支配している」という定義もありますが、それは、どちらかと言えば、システムを支配する者がいるお陰で、今の状態から大きく逸脱することはない、という意味です

因みに、システムを掌握するにはその仕組み(メカニズム)が必要です。その仕組みについて、私は次の定義を提案します:

何か悪いことが起きそうな不吉な状況を示す情報を監視し、それに応じて是正措置を取ることで、不確実性に対処するという、反応的な仕組み

何か起きそうな不吉な状況は、私たちの恐怖を呼び起こします。悪いことが起きる可能性が導き出せるなら、その脅威が実際出現したことを示すシグナルを見つけることができます。たとえば、私たちは泥棒が家に入るのが恐い。だから、泥棒が入ったら私たちに知らせる警報システムを設置するのです。また、警察や地元の警備会社に電話するなど、警報が鳴ったら何をしないといけないか知っていなければなりません。

組織を経営する上で、恐怖は非常に大きな影響を及ぼします。マネージャーは、組織への悪影響はもちろん、自分個人への影響の方がもっと怖いのです。組織という文化は、非常に不確実な状況でもすべて最適にするよう求める、一見合理的なアプローチを強制します。実際、組織は、特に従業員は常に野心的な目標を約束しそれを達成できるという類の、それぞれの迷信を使います。ということで、もし従業員がそうできなかったら、自分の能力の無さ、または、何としてもやるという気持ちの無さを示したことになって、彼ら自身の失敗になります。実は、日頃から広く行われているこの種の振る舞いは、不確実性は無視してよしとする、特別な種類の迷信です。

私が思うに、不確実性には、変数の自然変動だけでなく、複雑さを吸収して大量のデータを整理するにおける人間の心的限界を含めるべきです。Goldratt博士は、どんなシステムも本来備わったシンプルさに基づいたものでなければならないと主張して、本当に複雑な人間のシステムを掌握するのは人には実際上無理と指摘しました。組織は、キャパシティの余力とバッファを確保することで、複雑なものをシンプルにします。そうすることで、小さな混乱や中断のほとんどは、仮にあったとしても、非常に小さなダメージしか及ぼさないでしょう。ところが皮肉なことに、組織はその大きな余剰キャパシティとバッファを隠そうとします。なぜなら、それらは、最適化のユートピアと相容れないからです。個人が隠しているバッファそれ自体は、組織内で個人の安全を守るだけで、そのバッファを隠す必要性はそう高く付くものではありません。個人、時には従業員のグループは、非常に高い確度で達成できる目標を約束すれば済むよう一生懸命です。それで、個人の目標に到達したら、彼らはそれ以上達成しないよう注意深く行動します。なぜなら、そうしたら次は今の快適な目標を約束すれば済む可能性が小さくなるからです。まさにそれこそ、世界の大半のビジネス組織で中核の問題だと私は思います。Kiran Kothekar氏も2016年のTOCICOカンファレンスで同様の意見を述べました。

目標の設定は、どこでも共通に用いられる重要なコントロール・メカニズムです。このメカニズムで管理したい2つの目的は、従業員が優れたパフォーマンスを発揮するよう常にプレッシャーをかけること、そして部門間の同期を良好に保つことです。ですので、営業の目標は、製造等オペレーションの目標に翻訳されます。また、その目標は、組織の同期プランとして機能する予算の策定にも一役買います。

さて、このコントロール・メカニズムは本当にうまく機能するのか?

それは、ある限られたレベルまではうまく機能するのは確かですが、深刻な悪影響をもたらすのも確かです。ほとんどの組織は、顧客に対してまあ安定した入荷率を達成しています。ですから、私が20品の買物リストを持ってあるスーパーマーケットに入ったとすると、リストどおりの品17点と、まずまずの代替品1つ2つを持ってその店を出るのが普通です。

でも、本当に欲しい重要な品物が1つ2つ見つからなくて、私は満足できますか?

うーん、私にいったい何ができるでしょう? 欲しいものが全部見つかるか不確かなのだから、次回は無さそうな気がする品物を多めに買っとくといった事しかできないですよね。もし誰かその問題を解決してくれたら、私にとっては非常に価値が高いでしょう。

ここでポイントは、ほとんどの組織は決して無秩序に振る舞っているのではないことです!!!

事前の予想のほとんどは比較的短期間に実現しており、それらは「掌握できている」と言えるでしょう。 しかし、ちゃんと掌握できている状態を長く持続しようとすると、現在のやり方には2つの問題が残ったままです: 

  1. 組織の真の可能性を最大限引き出したとはほど遠いパフォーマンス。 実際、最適化の幻想からもほど遠い。ひょっとして、別のコントロール方法を使った方が、はるかに高いパフォーマンスを達成できていたのではないか。
  2. ほとんどの予想は当たるが、当たらないものもある。いつまでも繰り返される予想外の結果に対する穴埋め措置(火消し)で、組織の至る所緊張が高まる。そのために、許容範囲のコントロールを維持するのにマネージメント・アテンション(経営の注力)の大半が消耗してしまい、結局、ほとんどの教訓が学び取られず、その後に活かされることなく終わっている。

これまで、TOCは、計画立案のルール実行のルール、その2種類のルールに着目してきました。実行フェーズも、コントロール全体の一部であり、計画/想定した目標にほぼ近い結果になることを保証します。

(訳注:計画立案における)TOCの深い叡智は、計画の潜在的な限界を決めている最も弱い輪(weakest-link)を見つけて、日常的で避け得ない不確実性から目標を守るために、目に見えるバッファを追加するという重要な洞察を取り入れたことです。一方、実行フェーズにおけるTOCの叡智は、バッファの状態を注意深く監視し、バッファの消費量が最後の3分の1を突破したら、危険な状況だと見なして、督促など危うい状況を解消する迅速な是正措置を実行することです。TOCには、制約が課す制限に応じて継続的な目標があり、バッファの監視も閉塞状態を識別する論理的な方法のひとつです。こうして、TOCは、非常に大きな変動からパフォーマンスを保護すると同時に、もっとずっと野心的な目標を追求できるコントロール・メカニズムを提供します。

しかし、現在のTOCの知識体系は、計画と実行の外で起きる事態や事象に面と立ち向かうには十分ではありません。多くの場合、それらはそもそも組織の外から生じます。

例: 自社にうってつけの市場で競合する新しい商品やサービスを提供する新たな競争相手が登場した。

もう1つの例: ある上級のマネージャーが、従業員へのセクシャルハラスメントで公に告訴されている。

外部で起きたのに、自分にとって重大な事態に対処できるコントロール・メカニズムって、いったいどんなもの?

因みに、上記の2つの例は、そういう脅威の異なるカテゴリに属すものです:

  1. 起きて当然と考えられる脅威。たとえば、新しい技術や提案をもった新たな競争相手が現れるだろうと分かっている。
  2. 予期しなかった脅威。 たとえば、誰かが、受け入れ難い予想外な行動に出た。

第1の潜在的な脅威は、表面化しつつある脅威の兆候をできる限り早期に検知して、実際その脅威が現れたとき対処する手順を予め準備するなどの適切なコントロール・メカニズムを、経営者が事前に検討しておける類の脅威です。

第2の脅威は、明確なコントロール・メカニズムが無いので対処が難しい。そういう予想外の出来事は、「掌握できている」という錯覚を打ち砕き、そうめったには起きないだろうが、掌握していると思ったコントロールを失うかもしれないという、私たちへのメッセージです前回の記事では、会社が特に脆弱でうまくコントロールできない時期である移行期について述べました。そういうときの一般的なアドバイスは、「うまくいかないとしたら、それはどこですか?」という質問をすることでした。その質問に答えれば、潜在的な脅威のいくつかは第1種の脅威に変わるでしょう。もう一つのアドバイスは「常に気を抜くな!」でした。

新たな脅威が出現しつつあることを示すある一定のシグナルが何度も出るようなら、たとえ未知の脅威だろうと、マネージャーはいずれそれを認めないといけません。そういう我々が思ってもいない脅威のシグナルに対しては、事前に具体的な備えをしておくことはできません。だとするなら、何かしら起きているという兆候を常時探って、それがどんな脅威なのか推測し、まだでき得る事が残っていないか、常に考えるべき人はいったい誰なのか? 混沌が支配する戦争に備えないといけないすべての軍隊は、予想できるできないに拘わらず、両方の脅威を積極的に探る諜報機関を持っています。普通の会社にも、そういう役を担うところが必要だと、私は思います。

 


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著者: エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: The managerial need and the illusion of being “in control”

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/

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