【ブログVol.31】狙う市場セグメントを明確にすること - 放置された重大な問題

ゴールドラット博士は、「市場を分けなさい  リソースを細部化するな!」と言いました。

ゴールドラット博士は、同じグループのリソースが生産し供給する基本的に同じ製品は、複数の価格が設定できるように、できるだけ多くの異なる市場セグメントに参入すべきだと思っていました。それをうまくやるには、狙う市場セグメントをすべて理解した上で、製品の機能・特徴と周辺サービスのパッケージにして、セグメント個別に求められる固有の価値を織り込まなければなりません。ご存じのとおり、航空会社は異なる価格の可能性を活かすことに卓越しています。どれくらい前に航空券を購入したか、別のクラスの席にフライトを変更できるかどうか、あるいは非常口座席に座りたいときですら、価格が違います。

私は、決定的な競争力(DCE)という概念は、そのDCEの価値が最も高いセグメントの定義を深く考え直さざるを得なくすると断言します。なにかDCEを見つけたら、その価値を最大限に引き出せるのは誰なのか判断できなければなりません。まさにその集団が我々の探している市場セグメントです。たとえば、DCEとして極めて高い在庫回転を実現できるとすれば、それは下記の特性がすべて当てはまる顧客には非常に魅力的です:

  • 顧客が在庫回転を正式な業績評価指標にしている。
  • 少なくとも取引相手の意思決定者が在庫の責任を負う立場なら、我々にもその顧客の大量の在庫に対する責任がある。そうだとすると、我々のロジスティックスを駆使すれば、顧客にとって重要な在庫回転を大きく改善することに貢献できる。
  • 顧客が我々を良いサプライヤーだと思っている。.
    • この条件は我々自身に大きく依存するが、これが当てはまらないと、顧客の考えを変えるのは非常に困難だと思っておく必要がある。だから、我々を信頼していない顧客は、狙うセグメントから除外しなければならない。
    • この条件は、普通は既存顧客を考えたもの。しかし、新しい顧客でも、我々の会社や製品のいい評判を聞いたことがあると分かったら、狙うセグメントに含めてよいだろう。
  • 顧客の責任者が顧客側で我々の商品の在庫を管理することに十分前向きである

在庫回転を正式な評価指標として使っていなくても資金繰りに苦労していたり、相当な資金不足に陥っていたりして、大きな価値が得られるような他のセグメントを検討するのもよいかもしれません。しかし、在庫回転を重視しないセグメントでは、営業プロセスが全く違うのは間違いありません。

私が言いたいのは、狙う市場セグメントを明確に定義することがDCEの選択に絶対不可欠であり、それ故に戦略に甚大な影響を及ぼすということです。

では、狙うセグメントを定義するには、一体どうやって顧客を分析すればよいのだろう?

私はこれまでしばしば、潜在顧客のCRT(Current Reality Tree:現状ツリー)や市場全体のCRTを作ってみようという話しを聞いたことがあります。正直言って私は2つの理由でその考えは好きではありません。第一に、相手の組織の積極的な参加無しにCRTを作るのは無理だと私は確信しています。そして、市場全体が同じひとつの中核問題を抱えているという確信がありません。第二に、仮にその中核問題をうまく見つけたとして、我々がターゲットとする顧客のために、その中核の問題を我々が解決(クラウドを解消)してあげられる確率はどれくらいですか?

私たちにできるのは、我々が解消または軽減できるだろう顧客が気付いている重大なUDEUn-Desirable Effect:好ましくない結果)をいくつか見つけることです。 その違いに注意してください。我々は顧客のすべてのUDEを探し出して因果関係で繋ごうというのではありません。私たちは、ひとつか少数のUDEのネガティブな影響を軽減することによって、顧客の価値を高めることに貢献するだけです。通常、顧客が競合他社よりも私たちを選ぶのにそれで十分で、我々はその勝利によって決定的な競争力を獲得するのです。

なら、我々が解決できる顧客のUDEをどうやって特定すればよいのだろう?

顧客の環境をじっくり考察して、間違いのある一般的なパラダイムをいくつか検討すれば、起きる可能性が高い好ましくない結果をいくつか推測できます。それが我々の探すUDEです。

例えば、大きなバッチに纏めて配送すると過剰な売残りと欠品が同時に生じます。そういう現象をじっくり考えれば、それが実際起きるかどうか検証するのはそう難しいことではありません。コスト削減が目的のバッチ処理のパラダイムと敢えて喧嘩しなくても、在庫を減らすと同時に、手痛い欠品がごく稀にしか起きない提案ができます。

様々なタイプの組織のコンサルタントをしてきましたが、適切なセグメンテーションの分析がほとんど軽視されているのには、私は本当に驚いています。おそらくその中核の原因は、「自分たちの製品は皆に等しく効果的だ」という素朴な思い込みです。中小組織のほとんどがマーケティングの実働部隊を持っていません。大きな組織のマーケティング活動は大部分が広告です。その広告キャンペーンのキーメッセージも、「16才から24才までの若者」以上終わり的な、はなはだ大雑把な定義の市場に向けたものです。私は、商品カテゴリそれぞれの市場セグメントの明確な定義をあまり見たことはありません。化粧品だともうちょっと個別のセグメントに注意を払っていますよね。私たちは、TOCをベースに活動する者として、製品それぞれの価値を最大限引き出せる有望な顧客をもっと明確に分析するよう求めるべきでしょう。間違いなく我々はDCEのターゲットになるセグメントの明確な定義を必要としています。

ちょっとした分かり易い例を紹介します。現在、私はデスクトップコンピュータ上でWindows 8を使っています。ご存じの「無料でWindows 10にアップグレードできます」みないたメッセージが私の画面に表示されます。無料で価値が得られるのは嬉しいが、その価値はいったい何ですか? Microsoftは教えてくれません。私にはよく分からないが、他に無いユニークな価値は、事実上PCの傍で生活するソフトウェア開発者、あるいは、まだコンピュータを使い続ける高齢者、どちらに向けたものなのでしょうか? Microsoftは答えません。おそらく彼らはそれを考えたことはないのです。私は言いたい、その定義があって当然です。いくらオペレーティング・システムだからって、多くの価値をすべての人に平等に提供できないでしょう。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: Defining the Market Segment – a neglected critical issue

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