【ブログVol.100】戦略的に重要な課題:ピーク需要の上手なマネジメント

ほとんどの組織は、需要のピークがほとんど無く、オフピークの期間の方がずっと長い。ピークとは、普段の変動を大きく超えた需要の高まりです。それに、需要がピークの間に得られるスループットが、年間の総スループットの非常に大きな部分を占める場合が多いのです。ですから、ピークの間にどう売るかは、戦略上重要な問題と考えるべきで、ピーク時のポリシーとオフピーク時のポリシーをスムースに切り替える必要があります。ピーク時のオペレーションで重大な問題は、内部で一番弱いところは、ピーク時はアクティブな制約になるが、オフピーク時は非制約だろうと容易に想像されることです。普通、この問題は、組織が自由に使える手持ちのキャパシティを、ピーク時に必要なレベルとほぼ同じだけ維持しておかないといけないと分って表面化します。

売上の取りこぼしや過剰な在庫を抱えるコストを防ぐだけでなく、組織の信用を高めることが可能なら 、需要のピークに備えるTOC流のソリューションを開発するといったものが、組織の全体戦略に含まれてしかるべきです。

2001年、Boaz Ronen氏、Alex Coman氏、私Eli Schragenheimの共著による「Peak Management」と題した重要な論文がInternational Journal of Production Researchに掲載されました。このブログの2016年5月の記事「季節性に面と立ち向かう - まさに厄介な問題」でも毎年繰り返され予め予想できるピーク需要にどう対処するかに焦点を当てたアイデアをいくつか示しました。この記事の最後にその記事へのリンクがあります。

一般的に言えば、需要のピークにうまく対処する最も効果的な方法を考える際は、それに関係する下記の3つの期間について議論しないといけません:

  1. 内製にするか仕入れてピーク需要に合わせた在庫を用意するなど、適切な計画と準備をする期間。つまり、ピーク期自体より前のオフピーク期。ピーク期に備えた計画の1つの一般的知恵は、典型的なピーク需要のいくらかをピークに隣接したオフピーク期に引き寄せること。これは、ピークの前後で顧客が買いたくなるような価格設定にすれば実現できる。明らかに、航空会社、ホテル、休暇ビジネス業者全体がこのやり方でうまく同調している。他も、自分たちの環境に合わせて、どこでも使えるこの知恵を採用すべきだ。
  2. 依存関係で制限された小さな数の自由度を最も効果的に活用したピーク期間中のポリシー、優先順位、プロセス。そこには、当然、アクティブな制約の最大活用とその他の従属を含む。たとえば、オフピーク時はすべて提供するが、ピーク時は提供する製品やサービスを一部に絞るといった販売ポリシーを真剣に考えねばならない。
  3. ピーク後の期間は、ピーク需要の影響の後始末をしないといけないので、それを予定に入れておかねばならない。通常、ピーク直後から「通常の」振舞いに戻すのは無理だ。ピークに合わせたポリシーはオフピーク時とは異なる。人は、通常、ピーク時の重圧が解けたら休む必要があるので、活動量がオフピーク時の平均よりも低い本当に遅い期間がピーク後に生じる。ピーク時に売れなかった在庫は処分しないといけない。多くの場合、そういう在庫は、オフピーク時の通常の安定した振舞いを取り戻すために、大幅な値引きで売られる。需要がピークの間全体で最大限刈り取るのに成功するか失敗するかは、ピーク時に何を売るかだけでなく、ピークが過ぎた後どうなるかに掛かっている。たとえば、キャンペーン販売の貢献度は、キャンペーン後の売上の落ち込みの深さに大きく依存る。 

先ず、非常に短いピークか長いピークか、予想されたピークか予想外のピークか、2つのパラメータで、ピーク需要を4つのタイプに分けましょう。これまで季節性に関する記事は、主に予想される長いピーク需要に焦点を当ててきました。ですので他の3つのタイプについて考えてみましょう。

予想される短いピーク需要

「短い」ピークは、ピークの間に在庫を補充する有効な手段がないものです。サービスであれば、ピーク前にその準備ができていないリソースは、ピーク中に追加投入できない可能性が高いものです。だから、基本、ピークが始まった時手元にあるものが使い得る最大限です。

たとえば、スーパーボウルみたいに、2種類の短いピーク需要を生む大きなスポーツイベントを考えてみましょう。1つは、どちらかのチームのロゴ入りの帽子やTシャツのように、特定のイベントに関連した特別な商品の販売です。需要のピークの間に帽子の最初の在庫に補充するチャンスはありません。もう一つのタイプは、警備のようなサービスで、起き得るどんなトラブルにも常に準備ができていないとなりません。そういうイベントでは、スタジアムのすぐ近くで警戒していない限り、突然起きた厄介な状況に対処するために、警備員を急に増員するのは非現実的です。

ピーク中の需要の事前の予測に全面的に依存するので、分析の焦点はその予測です。ですから、予測の妥当性とその予測に基づく判断ルールが準備の中核なのです。

このブログのどこかで既に述べましたが、一点見積もりは間違った判断に導きます。賢明な判断に使える予測情報を得る唯一の方法は、2つの予測値を探すことであり、1つは悲観的な予測に基づく妥当な見積もりで、もう1つは楽観的な予測に基づく見積もりです。

悲観的な予測は、先験的に必ず用意しないとならない必須なものの情報を示します。それに対して、楽観的な予測は、特定のケースにどれだけ付加的なリスクを覚悟できるかの判断に導くはずです。N個の在庫を準備するといった、どんな定量的な意思決定でも、その損害の可能性は2つのシナリオを調べることで見積もれるはずです。ひとつは、需要が悲観的な予測のとおりだとして、需要がピークを過ぎた後、在庫数Nから悲観的な予測値を引いた残りを値引き販売で処分することになります。もうひとつのシナリオ、楽観的な予測によると、楽観的な予測値から在庫数Nを引いた分売り逃したことになります。この判断ルールは、全体的にみて、損害あるいは取りこぼしを最小限に抑えられる、最良のNを見つけ出そうとするものです。ここで注意しないといけないのは、短いピーク需要で完全なアベイラビリティを保証するのは非現実的だということです。

ピーク時自体の計画には、ピーク開始時の在庫やリソースの正確な配置が含まれていないといけません。スーパーボウルのイベントで帽子を販売する場合は、初めて販売する売り場には初期在庫の数量分入れる必要がありますが、残りはどこか中間に保管しておいて、工場ではなく中央の保管場所から売り場に消費した分だけ補充すればよいのです。それと同様に、ゲーム中の安全を守る警備の場合は、何か所か重要なところに警備員を配置する必要があり、駐在員だけで対応が厳しい状況での対処を助ける部隊を中央に待機させておく必要があります。

ピークが過ぎた後の焦点は、可能な限り早く通常の状態に復帰することです。それには、ロジスティック、大量の在庫の処分、そして、しばらく活動量を減らすことが含まれます。

もし使えるなら、需要がピークからピーク前またはピーク後の需要にシフトする間は、短いピークの計画で重要な部分です。その間ピーク時の制約をよりうまく活用して、ピーク時のリスクを軽減できます。

予期しない短いピーク需要

急に起き得る需要のピークを意識している組織もあります。消防署や病院の緊急手術室のようなところにとっては、それ自体が重要な目的です。したがって、実際急な需要がいつ起きるか分からなくても、そのようなところでは、その事態に備えて一定の在庫と/またはキャパシティを保持します。そのような組織には、急な需要に備える組織的なプロセスがあります。ですので、5段階集中プロセス(5 Focusing Steps)の最初の3ステップを使うことが、予期しない大きく短いピーク需要にどう対処するかの「定石」の中核になるはずです。

そのような事態に対する準備のない組織は、行き当たりバッタリにならざるを得ません。改めて言いますが、5段階集中プロセスの最初の3ステップを理解しておくことは、そのような予想外の需要のピークに上手に対処するための第一の指針です。

予期しない長いピーク需要

予期しない長いピークは非常に稀です。需要が予想外に増加し始めたとき、それが市場のトレンドなのか一時のピークなのか、つまり、そのうち需要が「通常の動き」に戻るのか否かを知るのは困難です。その1つのケースは、将来の成功の可能性に気付かず、ある組織が大きく驚異的なヒット商品を投入したときです。この驚くべき成功が持続するのかどうかの見極めが重要です。間違って将来の成功が約束されたと思い込み、市場のトレンドだと勘違いして慌ててキャパシティを2、3倍にしたら、悲惨な結果になるでしょう。もう一つ明らかな間違いは、今のままキャパシティを増やさないのに固執して、他の競合会社が新しい市場の需要を奪うのを黙って見過ごすことです。TOCには、予想外の需要の急増の裏にある真の原因を調べるツールがあります。

予想外の需要のピークが始まろうというときのTOCの基本的なメッセージは、内部の新たな制約を特定して、最大活用と従属の新しい要件に合致するようにプロセスを素早く変えなさいということです。もちろん、最適な方法で新しい状況に適応できるようになるには、経営と幹部はTOCの知識を熟知している必要があります。残る大きな課題は、おそらく他のリソースも含むが制約を強化するか、待って様子を伺い、将来の市場の需要を一部捨てるかという選択です。

すでに述べましたが、需要の長いピークへの対処については、「季節性に面と立ち向かう - まさに厄介な問題を見てください


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

70歳にもなってブログを書く理由
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この記事の原文: Managing peaks as a strategic issue

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