【ブログVol.113】複雑性と不確実性への挑戦

「あなたのビジネスの可能性を最大限引き出すのを邪魔する3つの過ち」と題した非常に興味深い記事をMickey Granot氏が掲載しています。詳細は https://www.linkedin.com/pulse/3-mistakes-prevent-exploiting-your-business-potential-mickey-granot/?published=t をご覧ください。そこでMickey氏が指摘している過ちは次のとおりです:

  1. あれこれと注意を発散するマネージメント
  2. 顧客の感じる価値の読み違い
  3. 評価尺度の誤用

この3つの過ちはどれも、ほとんどの企業において、今保有する能力とキャパシティをもっと効果的に活かそうとするのを邪魔する重大な悪影響を及ぼすという意見には、私も賛成です。経営者がこの過ちを繰り返す原因になっている中核の問題が何かあるはずだと私は思います。

有望に思える変化(変革)から否定的な結果が出るかもしれないことに対する消えない恐れ

この恐れは、本質的な複雑性と不確性が結びついて生じます。業務費用(OE)を大きく増やさずに、より大きなスループット(T)を生む可能性があるとしても、どんな企画であれ多くの未知が存在します。不確実性と一体の複雑性に対処する困難は、どのマネージャにも重大な障害です。この恐れは、部分的には組織の利益を損なうことに対するものであると同時に、部分的には「失敗」で自分に潜在的なマイナスの影響が及ぶことに対するものです。

例: 定番商品を様々なパッケージにして10%安い値段で売る企画。この提案は、第一に、同じエンドユーザー向けの商品を組み合わせることです。もう一つの特徴は、売れ筋と並の売行きのものを組み合わせることと、それによって並の売行きの商品の市場を拡大することです。もうひとつ別の側面は、内部で最も弱いところは残業しないといけなくても、それ以外のほとんどのリソースは余剰のキャパシティを使えることです。つまり、ΔT(スループットの増加)がΔOE(業務費用の増加)をはるかに上回るということです。たとえば、出版社は、著名な作家の本を何冊かパッケージで売ることができます。この市場では、有名な作家の最新の本はよく売れるものの、それ以前の本は少ししか売れず、棚に無いことさえあるのが知られています。ですので、名の知れた作家の最初の本と合せて最新の本をパッケージで売るのは、古い本を見逃したファンには嬉しいでしょう。

そのアイデアに対してマネージャはどうアプローチするでしょう? パッケージにして値段が下がることを考えると、一品あたりのスループットが大幅に低下することになり、その方法でどれだけ売上が増えるのか、また、損益にどう影響するかは、先見的に明らかというわけではありません。

それで、そういう企画は、非常に注意深く、長い時間かけてテストするのが妥当な判断だろうということになります。実際には、ごく少数のパッケージ商品を投入してみて売行きを監視するということです。その結果、損益への影響はあまりハッキリしないのが普通です。したがって、経営者としては、その企画にはごくわずかしか注意を払わず、同時に別の新しい企画をいくつか試さないといけなくなります。その必然の結果として、経営とマネージャの注意(マネージメント・アテンション)をあれやこれやと広く薄く発散させることになります。これは、不確実性に対する根本的な恐れが引き起こす好ましくない結果の一つです。

2番目の過ちは、背後の因果関係を完全に理解するのが難しいものです。私たちは、いったい何故、顧客が感じる正しい価値を読み違うのが多いのでしょうか? まず、顧客が組織の場合は、その組織の実務ニーズに基づく価値が求められると仮定してよいでしょう。だとすれば、顧客のビジネスを理解すれば、サプライヤーは、その真のニーズを特定し、自分が提供する製品/サービスの価値を高める方法について重要な洞察を得ようとするのが自然です。問題は、そういう理解の必要性は、まったく常識になっていないことです。次の2つの重大な障害のせいで、ほとんどのマーケティング担当者は、自分の顧客のビジネスについてほんの少ししか知識がないのです。

  1. 外から知らないビジネスを分析するのは、ややこし過ぎて不確かに思える。
  2. 提供された製品/サービスを顧客がどう評価しているか知る今現在の手段は、顧客から出た苦情を分析すること。しかし、それは非常に不完全で間違いの多い方法だと分かっており、あまり重要でないものが挙がる上に、本当に重要なものが見過ごされる恐れがある。なぜなら、本当に足りないものや欠陥のあるものにサプライヤーが対処できると顧客が思っていないことが多いからだ。それでも、多くの人には、何か決まった手続きさえあれば十分に見える。

しかし末端の顧客(消費者)となると、商品に求められる価値を理解するのはもっと困難です。なぜなら、末端の消費者は、実用でない価値を求めることが多いからです。たとえば、味の好みは、客観的な属性やデザインの美しさによって論理的に定義できるものではありません。私は、以前、価値の3つのカテゴリーについて記事を書きました。「価値のカテゴリー」をご覧ください。

前述の例を分析すると、良いパッケージの開発は、顧客が感じる価値の深い理解が前提だと分かります。10%の値引きがパッケージ全体を買う良い理由になるのかどうかさえ、価値に対する顧客の全体的な認識に左右されるのです。

否定的な結果になるかもしれない恐れから、顧客やベンダーなど外部の世界に対する直感的な想定には、組織は非常に臆病になります。末端の消費者を理解するには、実データの分析だけでは不十分なので、さらに困難です。何らかの論理的な分析が必要なのは間違いありません。しかし、末端の消費者を理解し、ある特定の変化に対する顧客の反応をおおよそ正しく予測できるには、完全な証明を欠いた仮定でも、いくつか必要です。顧客の反応を予測できない恐れは、特定の市場セグメントの真のニーズを特定する「理論」を作ろうとする努力を押さえ込み、その結果、「理論」を実際に試せなくするので、既存のアイデアや企画よりずっと価値が高い多くの有望な機会を取り逃します。

従業員を評価するのに成果測定を使うのは、失敗への恐怖から生じた不信の明確な通知になります。成果測定は、新たな問題の兆候の診断と意思決定の重要な判断材料として絶対に必要です。ただ、ひどく間違っているところは、その測定結果が担当者の能力と意欲の反映だと解釈することです。この従業員への信頼の欠如が、多くの局所的な評価尺度を作り出し、それらがどれほど歪曲したものか、私たちは知っています。私の以前の記事 「成果測定に関わる問題と解決の方向性」もみてください。

私が思うには、結局、複雑さと不確実性に対する恐れが、ほとんどの組織の究極の中核問題です。様々特定の意思決定や行動のせいで起き得るマイナスの結果への恐れを一つひとつ克服できるのは、皆が自分以外の人すべてをよく知る、非常に小さな組織だけです。

TOCは、その重要な応用分野である生産、プロジェクト管理、流通において、どこであれ常に起き得る日常的な不確実性に対処する優れたツールを提供していますが、今のTOCの柱(4本柱)は、不確実性への対処には間接的にしか関与していません。すでにHumberto Baptista氏は、不確実性とうまく共存するという必要性までカバーし、不確実性に効果的に対処できる第5の柱を追加して、繁栄し続けるために実際使うべきだと提案しています。Humberto氏が言うのは「雑音に隠れるような最適化はむしろ雑音を増幅する」ということです。Deming博士の統計的品質管理にもあるこの洞察は、効果が自然変動に勝るものでない限り改善とは言えないと、我々に気づかせるに違いありません。

不確実性を全面的に認めて、それにより従業員の恐怖を軽減し、従業員とマネージャ、経営幹部の全員が、自分の能力を最大限に発揮できる「期待マネージメント」の方法を見つけ出さないといけないのです。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

70歳にもなってブログを書く理由
自己紹介

この記事の原文: The Challenge of Facing Complexity and Uncertainty

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/