【ブログVol.106】ビットコインに対する素朴な心配

TOCは私たちが明晰に考えるよう導かないといけません。私はビットコイン現象に関してそれを試みて、私のロジックに対する読者の反論を浴びようと思います。私は、ビットコインはあまりよく分かっていません。また、当事者間の取引や契約のセキュリティとプライバシーを保護するとされているブロックチェーンが、どうやってその期待どおり動作して、外からのハッキングは一切なく、情報の安全性が完全に保証されるのかに関して、もちろん私は専門家ではありません。

私は、新しい技術の価値を評価するゴールドラット博士の6つの質問におおよそ素直に従うつもりですが、第2~5の4つの質問だけを使います。大事な点は、6つの質問は、発展途上の組織を対象として、全体的な価値を向上するための指針を提供するものだということです。ここでは、私にとってのビットコインの価値を評価したいのです。

この6つの質問を扱った記事はこのブログに2つあります。最初の記事へのリンクはこれです:https://elischragenheim.com/2015/12/28/uncovering-the-value-of-new-products-part-1/(日本語訳:新製品の価値を発掘する - 第1部)。 2番目の記事は、このページ一番下のリンクをクリックして見てください。

ビットコインで解消される今現在の制限(質問2)は、当事者間での安全なお金のやり取りを提供するのに、銀行やクレジット会社のような特定の中間業者に頼らないといけないことです。もう一つは、国際取引は通貨間での両替が必要なことです。ビットコインを使うのに、中間業者が情報の一部に当該取引の情報を入れる必要があるのに変わりありませんが、それには沢山のサービス・プロバイダー(仮想通貨取引所)がいます。しかし、ビットコインの購入では、通常の通貨(「法定通貨」)からビットコインへの交換が必要です。

従来の中間業者に絡んで2つの問題があります。ひとつは、彼らはトランザクション単位で手数料を取る上に、それは安くありません。第2に、彼らは当事者に不利な使い方をし得る個人情報に直接アクセスできます。最も注目すべきは税務当局への通知です。プライバシーを失う脅威は、違法薬物取引のような違法あるいは不道徳な行為をしようと思っている多くの人々にも障害になります。中間業者が大きくなるほど、記録された情報が元の所有者に不利な使い方をされる懸念も大きくなります。

ところで、本当に人が違法行為を隠蔽する手伝いをしたいですか? これは倫理的な問題なので、読者の判断に委ねます。もっと普通なところで、誰にも侵害されたくないプライバシーは他にあります。

今存在する制限を今どう回避または緩和しているか(質問3)については、現金取引か物々交換です。セキュリティの問題や現実的な実行方法の問題で、現金はごく限られた方法でしか使われていません。今の制限を緩和するもう一つの方法は、多数の銀行または複数のクレジット会社と連携することです。

ビットコインを使うための最初のステップ(質問4)は、十分なビットコインを買うか採掘することです。因みに、ビットコインはどんな10進値でもかまいません。このビットコインの採掘(発行)は、巨大なコンピュータ・システムにしかできないほど難しいので、ビットコインはまだごく少量しか採掘できていません。だから、簡単な方法は既に持っている人からビットコインを買うことです。問題は、ビットコインは現金か中間業者を使うかどちらでも買えることです。企業は、ビットコインで支払う顧客に製品やサービスを販売することでビットコインを入手できます。これは取引の機密を保つのに都合の良い決済方法です。
(訳注:上記の計算は、ブロック単位での取引承認に必要な計算で、当該ブロックの計算を最初に正しく行った人に、報酬として一定のビットコインを新規に発行して与えられるので、比喩的に「採掘」と呼ばれており、基本誰でも参加可能)

したがって、ビットコインは、金融取引の秘密保持が必要な企業に相当大きな価値をもたらす気がします。今現在の国際取引の手段より安くて速いだろうから、インターネット経由で国外の売り手から購入する小口の顧客にも、一定の価値をもたらすでしょう。また、小口顧客が何を誰から買ったかプライバシーを守るにも便利です。

しかし、ビットコインを使うことへの潜在的な疑念に目を向ける(質問5)と、今度は非常に深刻な欠陥が見えてきます。

ビットコインの為替レートは非常に不安定な動きをする

ほとんどの通貨の為替レートが変動する事実は、前々から大きな問題です。幅広く国際的に活動している多くの企業の損益は、自国通貨とドルまたはユーロとの為替レートに大きく依存しており、その変動がかなり大きな苦痛を与えています。

TOCの読者のために、為替レートがスループット(T)に与える影響についていくらか説明を加えておきます。米ドル建ての取引で、商品の配達1ヶ月後代金が入金されるとしましょう。私たちはsコインと呼ばれる通貨を持つ別の国に住んでいます。そこでは、どのsコインも配達日にはちょうど$1だったとしておきます。実際得られるTは、品物の配達日時点での理論上のTから3〜5%はアップかダウンするのは明らかです。つまり、実際代金が支払われるまでTの値は分からないのです。同じ歪みが材料の価格にも及ぶでしょう。スループットは、売上高から真の変動費(TVC)、つまり主に材料費を引いた金額です。ところで、材料のコストはいくらですか? 元々の購入価格ですか、それとも同じ材料を補充するに必要な今の価格ですか? 私は後者であるべきだと思います。その材料を国外のサプライヤーから購入しているなら、スループットの計算にさらに別の不確実性要因が加わることになります。

以上のように、国際的な企業活動に為替レートが与える影響は非常に大きいのです。その上にビットコインを使用したら、正式に完了した取引によるTの不確実性のレベルは劇的に大きくなります。ですから、取引そのものが、実は同時に2つの非常に異なる取引の組み合わせになっています。ひとつは、$Xで売られる商品の取引です。もうひとつは、Yビットコインで買う$Xの取引で、こちらはそもそも非常に不確実な取引です。

現在のビットコインは気が狂ったような動きをしており、中毒のギャンブラーにはぴったりですが、それ以外の人には合いません。我々はビットコインの価値を決める明確な方法を何も知らないので、今後とも非常に不安定な動きをする可能性が高いのです。これがビットコインはお金として使うべきでない主な原因だというのが、私の主張です。それは危険すぎます

この価値が不安定な仮想マネーの本質的な機能性の欠陥は改善できるでしょうか? いつかビットコインに代わるものが出てくる必要条件だと思って、経済の賢人たちに期待しましょう。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

70歳にもなってブログを書く理由
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この記事の原文: Raw Thoughts about the Bitcoin

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