【ブログVol.109】業界の常識にとらわれる

2018年3月9日
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Different people. Run to new opportunities

崩れつつある常識

どこの業界にも、(本当にベストか?は別にして)そこ独自の「ベストプラクティス」があって、その分野にいる皆が信じる一連のパラダイム全体を共有しています。その結果、激しさを増す競合との同じ顧客の奪い合いで消耗して、業績が頭打ちになり徐々に低下する悲惨な状況に嵌まるのです。

このように、飛躍的な業績の伸びが一切なしに、毎日現状維持の戦いをしているのが、大半の組織の現実です。そのため、これができる精一杯だと思って、かなり小さな利益で我慢するか、多少の損は許してしまうのです。そういう会社は、まあまあ安定した状態には残れても、それより良い未来は望めません。

十分とは程遠くても、まずまずの成長を回復する必要条件は、業界で重要な共有パラダイムをひとつ覆すことです。それができれば、競争相手が皆疑わずにやっている普通のやり方から脱却して、競争相手と明確な差別化ができます。そういうパラダイムを覆さないと、それを相手が先にやって、今が安定だという間違った印象が突然崩れる危険性があります。

しかし、他と違うからといって圧倒的に勝てるとは限らず、顧客には新しい価値をもたらさないのは確かなので、このステップは成長には絶対必要でも、非常にリスキーです。あまり標準と違うことが多いと、何の恩恵もなく他と違うものに親しめない顧客の感覚的な価値を下げるだけです。そうでなくても、ターゲットの市場にはその新しい付加価値は高すぎると見えるかもしれません。

もう一つのリスクは、顧客にとっての新しい価値を生み出せたとしても、顧客はその新しい価値を認めて高く評価してくれるとは限らないことです。問題は、その予想外の付加価値は、今までのやり方を変える前提かもしれないことです。驚くほど素晴らしいなにか新たな価値だと知っても、顧客はその戦略をうますぎる話しではないかと疑うでしょう(「なんで今までそんな提案が出てこなかったんだ?」)。

このリスクの重大な点は、今までの常識に反する試みは、たとえブレークスルーを起こす可能性があっても、すべて阻害することもある恐怖心を生じさせることです。この恐怖にうまく対処するには、そもそも恐怖を感じるのは自然だと認めて、潜在的なリスクあるいはその悪影響を論理的に分析し軽減する努力をすると同時に、その悪影響を抑える即時是正措置を遅滞なく講じるセーフネットを構築すれば、リスクは回避可能だということを、ちゃんと理解しおくことです。潜在的なリスクをちゃんと見積もれて、かつ抑制できれば、自ずと恐怖心は克服できます。

これと似た恐怖と一見無関係に見えるもう一つの悪影響は、初期の約束を果たせる望みが失せた、あるいは消し飛んだにもかかわらず、そのまま続行される研究開発プロジェクトが多いことです。業界内で共有され確立されたパラダイムに挑戦するのを避ける原因は、失敗とその個人的な影響への恐怖心です。「失敗」という言葉は、特に実績評価と誤った使い方の原価計算の世界では、否定的な意味合いが強く、そもそも、それこそ覆すべきパラダイムです。それに代わる表現は「リスクを承知で行動にでる」という言い方です。そういう表現なら、試みは失敗するかもしれないが、それを織り込み済みでやろうと決めたのだから、失敗しても「失敗」と同じ意味には解釈されないのが自然に理解できます。ハイテク分野での起業は、失敗の可能性があまりに高くて、当事者の個人的な自尊心と評判へのダメージが最小限に抑えられるので、何か並外れたことを成せる価値の高い多くの努力への道が開かれるのです。

リスクを織り込んだ行動は、新技術分野だけでなく、もっと広くあらゆる事業分野で必要でしょう。なぜなら、潜在的な顧客に新しい大きな価値を提供する方法は様々あり、技術的なブレークスルーが必要なものは極めてわずかしかないからです。

しかし、リスク承知の行動は、次の2つの必須な要素に裏付けられたものでなければなりません。

  1. 失敗する可能性があると完全に認めて、リスク承知の行動を公式に是認する文化
  2. リスクを分析するに有効なプロセスの使用。そのプロセスには、潜在的なリスクを減らす方法の探究を含み、最終的に潜在的な損失と潜在的な利益の両方の分析結果を示す必要がある。

このリスクを承知で行動を起こすプロセスの問題は、ほとんどの場合、十分な精度で確率を見積もれないことです。統計モデルを使った確率の推定はしばしば誤解を招きます。

しかし、不確かさの大きさを見積もるのが難しいからといって、経営者やマネージャーに計算づくのリスクという考え方を無視させてはいけません。なぜなら、どの組織の未来も、いくらかでもリスクを犯さないと絶対手に入らないからです。リスクを取らなければならないとするなら、それを見積もる十分な方法を開発しないといけません。適切な文化を築けるかどうかは、リスクを見積もれる許容可能な方法が見つかるかどうかにかかっています。「計算」と言うと正確な計算の結果のように聞こえるので、「見積もり」と言う方が適すでしょう。

不確かさの見積もりと、不確かである結果生じる損失の大きさの見積もりは、区別しないといけません。では、次の例でこの区別の効果を見てみましょう。

ある食品会社は、人気ブランドSoupOneの上級ブランドを新しく投入する案を評価している。この新ブランドは、スープの本当の味を知っている市場セグメント向けである。それはSuperSoupOneと呼ばれ、価格は50%以上高い。これは一種の新しいパラダイムだ。なぜなら、食通は加工食品を敬遠するというのが今までの常識だからだ。

この会社の経営者には、グルメ愛好家もそういうスープを試しに食べてみたくなるかもしれず、食べて本当に彼らの好みの基準を満たすと思えば、その後も食べてくれると確信してよい、十分な証拠があるものとしよう。ある市場調査に基づく「最も確からしい」見積もりでは、SuperSoupOneは現在のSoupOneの需要の10%の市場を獲得するが、SoupOneの購入者の5%しか新商品に乗り換えず、残りは新規の顧客だという。

しかし、幹部の一人がひとつの潜在的なリスクを指摘している:

SuperSoupOneが出たら、人気が最も高い今のブランドの評判はどうなりますか? 今のはかなり味の悪い低級品で、メーカは今度こそそれよりずっと味の良い高級品を出そうとしているというメッセージになるのでは? 買う人が高級品を買う余裕がないと、どうすると思いますか? 私は、他社の商品を試してみようという客が出てくるのではと心配です。」

つまり、同社の主力商品の売上が一部失われる恐れがあるということだ。SuperSoupOneSoupOneの売上にどのくらい影響するのか? 実際は良い影響が出るのかもしれない。どうなるか本当に分かるのだろうか? 我々は、悪い影響を被る確率と、その結果損益にどういう影響が出るのか、両方を見積もらないといけない。

ここでは、見積もるべきリスクは、新しいブランドの投入が古いブランドの売上に及ぼす影響であって、新しいブランドがそれを市場に投入する際のΔOE(業務費用の増分)を上回るスループットを生むかどうかではないことに注意して欲しい。

どうやればそのリスクを見積もれるのか? SoupOneが生み出す現在のスループットは500万ドルだとしよう。既に述べたSuperSoupOneの予測によれば、新ブランドの販売数量はSoupOneの現在の販売数量の10%である。その売上のスループットは、価格が上昇するので現在のスループットの20%になるものとしよう。すると、新ブランドからは100万ドルのスループットが得られ、古いブランドから失われるスループットはわずか25万ドル(5%)に過ぎないことになる。

しかし、今のブランドの売上が5%低下するというのは、「最も確からしい」曖昧な予測にすぎず、しかもその5%が今度は新ブランドを買うことになっている。でも、本当に今のブランドの評判が落ちれば、その売上は最大30%落ちこむかもしれない。そうなれば、今のブランドから150万ドルのスループットが失われ、新ブランドの「最も確からしい」見積もりであるスループット100万ドルでは、その損失をとうてい補えないことになる。

以上の大まかな計算は、ある意味合理的な最悪のケースとして、最大50万ドルの損失を被る潜在的なリスクがあることを、経営者が理解する助けになる。それ以外の合理的な可能性は、新しい目論見で得られる全体としての利益の増加に比べれば、はるかに楽観的なものに違いない。

もっとリスクを小さくできないだろうか? 新ブランドには、今の人気ブランドを連想させない、まったく別の名前を付けたらどうだろう? おそらく悪い影響を完全には排除できないが大幅に軽減するに違いない。

このちょっと詳細な例を出した目的は、明確な意思決定を引き出そうというものではありませんでした。既存のパラダイムは正しくない、だから正すのは容易だと言うつもりは全くありません。また、高級品を出すという企画が良いアイデアなのかどうか、今の市場に実際どういう影響を及ぼすのか、私たちには実は分かりません。この例は、潜在的なリスクとその損益への悪影響を緩和するには、当事者の直感を使って、より良いアイデアを引き出す必要があることを示すために使いました。リスクをともなう変革や戦略を評価するためのソリューションについて、ある程度の方向性は示せたと思います。

こういう分析は、皆が信じる今のパラダイムを覆さないと成せないブレークスルーの終わりの無い探究に道を切り開くという、もっとより大きなニーズを満たすための前提条件です。この記事の目的は、どんな組織にも、広く一般に信じられているパラダイムに挑戦することこそ本当に必要なのだと主張することです。個人的なブレークスルーを目指すあなた自身の望みについても、同じことが言えるかもしれません。それには、皆が信じるパラダイムからの挑戦を受けて立たないといけません。

 


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著者: エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

70歳にもなってブログを書く理由

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この記事の原文: Caught within the shared paradigms of their business area

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/

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