これまでTOCは短期にしかフォーカスしていないと批判されてきました。その最大活用スキームに他のすべてを従属させると同時に、能力制約(CCR:Capacity Constraints)を最大活用するというのは、短期的に見れば、より多くのゴールを最も早く効果的に達成できる典型的な方法です。
一方、長期的に見ると、すでに制約を最大活用できており、制約以外がちゃんと制約に従属しているとすれば、我々には制約を強化するしかやることが無くなります。そうすると制約は市場に移ります。そうしたら、マフィアオファー(余りに魅力的で断り切れない提案)を用いて市場を拡大(最大活用)して、制約を再び自分の側に引き戻す、以下同様、・・・。これが、5段階集中プロセス(5 Focusing Steps)が長期的にどう機能するかの古典的な説明です。(訳注:制約が移動する度にパフォーマンスが不連続に飛躍するので、そのサイクルを回せばよいという論理)
なら、制約が市場にあるとき - 市場を拡大するのにどこに努力を集中すべきか、経営者はどうやって決めたらよいのだろうか?
理屈上は、内部にアクティブな制約が一つもないなら、市場のどこを拡大しようが好きにしてよいはずです。ところが、好き勝手に市場を拡大すると、結局、最大の利益をもたらす制約とは別の「間違った」ところが能力制約(CCR)になってしまいます。
ひょっとしたら、「戦略的制約」という考え方が、正にそうあるべきリソースが次の制約になる市場を拡大するように我々を導くのではないかと思います。それを念頭に考えると、マーケティングと販売の労力をどの市場に向けるべきでしょうか? 戦略的制約の単位当たりスループット(T/sCU:Throughput per strategic-Constraint-Unit)が高い製品をベースに計画を立てますか? ところがそうすると、実際には、思う戦略的制約ではない別のところに制約が行ってしまうのは確実です。戦略的制約は、普通の制約になる寸前まで負荷をかけてはいけないのです。
内部に戦略的制約を置くのは正しいのか?
私はそうは思わない! 既存の顧客に卓越した信頼性を提供すると同時に、市場のチャンスに素早く応えられる柔軟性を確保するための予備のキャパシティも残しておかないといけないと言うには、ちゃんとした根拠があります。私は、信頼性が必ずしも決定的な競争力(DCE:Decisive Competitive Edge)でないのは承知していますが、たとえそうだとしても必要条件なのに変わりありません。内部の制約は常に信頼性と素早いレスポンスを危うくする脅威なのです。
TOCは決して長期的な影響を無視はしていませんでした。しかし、主なフォーカスが、制約の最大活用という、短期的なところにあったことは認めます。それが何故なのか簡単に言うと次のとおりです:
遠い先を見れば見るほど、不確実性の影響が大きくなる
ですので、長期の取り組みはどれも失敗する危険性が高いのです。といって、我々がいつか実現したい未来永劫繁栄する状態を手に入れるには、そのために我々が今やれることを放置しておけないし、放置すべきでもありません。
短期のフォーカスで問題にするのは、今手にしているリソース、能力そして市場機会です。将来有望な顧客にとっての新しい価値を生み出すのはその視野にありません。しかし、決定的な競争力(DCE)を獲得するとなると、製品やサービスの投入が市場の拡大に効果的に働くように、様々な部分を同期させ統合するのに多大な時間と労力を要します。しかも、市場の拡大にちゃんと応えるには、それ相応のインフラ、リソース、能力そして堅牢なプロセスを備えなければなりません。
したがって、どんな組織にも次の2つの重要なフローがあるのが容易に確認できます:
- 現在の価値フロー - 短期のスループット(T)生成。
- 将来に向けた取り組みのフロー、つまり、将来有望な顧客にとっての価値を高めて、新しい市場に参入し、可能な限り、業務費用(OE)と投資(I)の増加をスループット(T)に比べて低く抑えるための活動の流れ。その取り組みは、同時に現実の戦略の構築にも貢献する。
この2つのフローはほとんど別のリソースを使います。現在の価値フローは、詰るところ、顧客から注文を受け、要求に素早く応えて、優れた品質を保証することです。つまり、その努力は、主に販売とオペレーションによるものです。
一方、将来に向けた取り組みのフローはそれと大きく違います。そこには、新たな市場機会に目を配る部門としてのマーケティングと、様々な市場に対する新しい答えを開発するR&Dが含まれます。その重要かつ壮大な取り組みは、市場の需要を拡大する、または市場の価値認識を高めようとする取り組みです。そして、その重要な取り組みから、たとえば、新しい技術や技能の獲得、人材の育成や設備の充実、新しいプロセスの導入といった、インフラを整備する取り組みが派生するのです。それ以外には、表面化しつつある脅威を警告するコントロールメカニズムの構築もあります。
この将来に向けた取り組みのフローを担う主なリソースは、経営幹部を含むマネージャーおよび高レベルの専門家です。もちろん、十分な額の予算もそのリソースです。
どんな組織であれ、成功するにはこの2つのフローが両方とも必須です。もちろん、収入のフロー、情報のフロー、人的資源のフローのように、組織には他にも沢山のフローがあります。しかし、私には、上記の2つのフローは、ゴール達成を左右する特に重要なものに思えます。
因みに、どちらのフローにも制約がありますが、それは同じ制約ではありません!
現在のフローは、ほとんど常に市場に制約されるべきで、時に内部リソースの不足に制約されることもあるというのが、90年代半ば以降の私の見解です。その見方からすると、顧客を彼らのサプライヤーの内部制約に従属せざるを得ない状態にくしておくと、我々の組織の将来にとって非常に大きなダメージになります。
しかし、将来に向けた取り組みのフローは、常に内部リソースに制約されます。なぜなら、将来の業績を向上させるだろうアイデアは、常に予算や人的リソースのキャパを超えるくらい沢山あって当然だからです。
これが、ゴールドラット博士が「究極の制約は経営者とマネージャーの注意力(マネージメント・アテンション)だ」と言っていたことの私流の解釈です!
私は、経営者とマネージャーの注意力が現在の価値フローを制限することは、そう多くはないだろうと思います。なぜなら、TOCの基本的な方法論がちゃんとインプリメントされて、仕掛りの量がほぼ適正な状態になったら、ダメージが避けられないレベルまで部門マネージャーの負荷が高くなるとは、そもそも考え難いからです。
ところが、将来の成長と安定を保証するための取り組みとなれば、マネージメント・アテンションがその戦略的制約です。その制約の最も分かり易い最大活用法は、将来最も有望なアイデアにフォーカスすることです。この制約を最大限活用すると同時に、組織のそれ以外の部分に対して正しい優先順位を示せる適切な従属プロセスを実現するには、できればS&Tの書式を用いて、TOCの考え方をベースにした戦略を注意深く構築するのが一番です。
私が思うには、これが長期的なTOCがどうあるべきかということです。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。
この記事の原文: Short-Term and Long-Term TOC Or the Two Critical Flows