【ブログVol.91】厳しい資金繰りからの脱出

この記事はRavi Gilani氏と私Eli Schragenheimの共著です。

破産したか破産寸前の会社のどこを見ても、資金(現金)は必須のリソースだと思い知らされます。

一般的に言えば、公的組織でも資金が最終的な制約になります。なぜなら、非営利団体である公共の組織が提供できる最大の価値は、予算で決まるからです。営利組織でも、資金不足でスループットが抑えられるほど運転資金が圧迫されることがあります。

この記事では、資金不足が存続の直接的な脅威になっている会社に焦点を当てます。この種の資金制約は、直ちにその制約から脱出する方法を絶対に見つけないとならない特別な状況です。

TOCに精通した人なら、組織の特定の制約はそれぞれ、他の制約とは違う方針や規範の存在を示唆するものだと知っています。制約のこの依存性は、お金が制約である場合さらに一層顕著で、必要な資材が買えなかったり、必要なキャパシティが使えなかったりして、組織の生命線が壊れてしまいます。その結果収入が途絶えます。その収入はさらに収入を生みだして、本来なら資金不足のプレッシャーを軽くするのに回せたはずのものです。そういう場合、資金自体の獲得がゴールであると同時に、その資金が会社の存続に絶対必要なキャパシティでもあるのです。これは、経営トップに他のどんな状況でもしない行動をさせる、非常に重大な影響を伴う特別な事態です。資金繰りの悪化で組織の存続が危うくなると、次々と襲う債務不履行の危機との奮闘で、経営陣の注意力がすべて消耗してしまいます。

資金(お金)がゴールでかつ制約でもあり、組織存続の直接的な脅威である一見ややこしい要因が、TOCの基本的な知見のなかで、まず制約を最大活用して、それに他のすべてを従属させるというところ(訳注:5段階集中プロセスのステップ2と3)だけ特に際立たせています。 しかし嬉しいことに、適切な行動を取ればお金の回収が非線形で加速します。この記事では、資金の制約を直ちに解消する方法を示したい。その制約は会社があまり長く我慢してよい制約ではありません。多くの場合、15〜20週間で資金が制約になっている状態から脱出できるはずだと、私たちは確信しています。

資金難で存続が危うい状況で役立つ一般的で重要な知見は、キャッシュ・コンバーションサイクルキャッシュ・ベロシティという考え方の理解です。それが、得た収入を糧にキャッシュ・ベロシティを加速して、危機的な現状を素早く抜け出せることに繋がるのです。

キャッシュ・コンバーションサイクル(C2C :cash-to-cash cycle time)とは、お金が外に出てからそれを回収するまでのトータル時間、つまり、我々が実際サプライヤーにお金を支払ってから顧客が我々に代金を支払ってくれるまでの時間です。我々は、その合理的な期間を日または週の単位で測ることができます。

キャッシュ・ベロシティ(CV:Cash Velocity)とは、ある一定の期間での現金1単位の貢献速度です。どんなビジネスでも、売上を上げるために必要な材料の購入またはキャパシティの提供に投資した1ドルごとに、平均として1ドルを超えた収入が必要です。つまり、入るお金の出るお金に対する比が1より大きくないといけません。考え方としては、1日や1週間のようなある一定の単位の期間で速度を計算します。

材料を買うコストが1ドルで、3週間後に完成品が2ドルで売れるとしましょう。そうすると、外に払ったお金は3週間で2倍になり、さらに3週間経つと4倍の4ドルになるはずです。

では、投資した1ドルは、丁度1週間後にはいくら増えるでしょうか? 答えは33%ではありません。なぜなら、1週間後に$1.33になるなら、直ぐその$1.33を再投資して売上を増やせば、2週間後には1.33×1.33 = $1.7689になり、同様にして3週間後には1.33×1.33×1.33 = $2.35になるので、2ドルではないからです。1ドルの投資で3週間後 2ドルになる場合のキャッシュ・ベロシティの計算は、CV = 21/3  = 1.259、つまり1週間当たり25.9%の貢献速度です。

資金繰りが苦しい会社は、生産ラインを稼働させつつ、限られた資金から材料の購入に投資して、それを売上に変えないといけません。その材料費は真の変動費(TVC:Totally Variable Cost)の主な部分を占めており、製品1ユニットでも生産せず売らないと、その分のコストが眠った状態で内部に留まります。TVCに投資したお金が早く売上に変わるほど、資金量の増加が速まって制約がどこか他に移るのも早まるのです。TVCと売上高Sの比S/TVCは、売上に対する材料投資1ドル当たりの寄与を表わした式です。この比は寄与率(contribution-ratio)と呼ばれます。

その会社にとって切迫した脅威は、上記以外のすべての費用(OE:Operating Expenses、業務費用)を賄えるかどうかです。これは、生産ラインを稼働し続けるために会社が負担しなければならないすべての経費です。このOEが賄えないとそもそも存続できません。ですから、存続し続けるに必要な額のOEの確保は必達です。限られた資金の中でその費用OEを除いた残りの資金は、会社が市場の需要にフル稼働で対応するに十分な資金が確保できる状態になるまで、可能な限り早くお金を稼ぐことに集中して使わないといけません。その状態になれば、制約は市場か別のリソースに移るでしょう。

因みに、キャッシュ・ベロシティの計算式は次のとおりです:

上記の計算式の ‘n’ はキャッシュ・コンバーションサイクルです。

次の表1は、2つの異なる製品PとQについての詳細な計算例です。

パラメータ製品P製品Q
単位当たりの売価$100$80
単位当たりの真の変動費(TVC)$50$50
寄与率 (売上高/TVC)21.6
製造リードタイム2週間2週間
売掛金回収期間4週間1週間
キャッシュ・コンバージョンサイクル (n)6週間3週間
CV/週 =12.25%/週16.9%/週

この表によると、資金不足のせいでPを売るかQを売るか選ばないといけないなら、Pを売るよりもQを売る方が早くお金を生むので、早く資金難から脱出できる確率が高そうです。しかし、その答えは直感に反しています。(訳注:製造リードタイムが同じで、Pの方が粗利額も粗利率も大きいので、普通はPを選びたくなる。)  これがまさに、資金が制約になると、殆どの経営者やマネージャーが正しい選択とはほど遠い選択をしてしまう理由のヒントです。

資金難の状態にある間は、会社が保有する資金は、常に、下記の2つの絶対必要な目的に使われます:

  1. 必須な業務費用の確保:会社が存続し続けるために絶対必要な経費、つまりOE。
  2. 売って収入を得るために絶対必要な材料の購入。つまりTVC。

会社がその期間生存するに必要な最小限の資金は n×OE です。なぜなら、今購入したものはすべて丁度n期間後に収入に変わるからです。しかし、その金額では、さらにお金を稼ぐための投資に回せるお金はありません。つまり、会社にその金額のお金しか残っていなければ、その会社はそれでお終いです。ここで問題は、その先も生き残る権利を得るには、一体いくら必要か?です。そこで、n期間後にいくらお金が残っていたら、その先も会社が生き延びられるか知りたいわけです。それを適正存続資金(adequate survival cash)と呼んでおきます。そこで、n期間後にピッタシ同額の金額Xが得られるような資金Xの金額を計算することにします。まず始めに、現在(最初の1期間)を含んで次の資金を得るまでの全期間に使うOEを賄うに必要な資金 n×OE を、その金額Xから差し引いておかないといけません。そうして残った資金 (X – (n×OE)) は、n期間後に完成品を売って同じ金額Xの収入を得るための資材の購入に充てて、同じプロセスを繰り返せるようにします。寄与率S/TVCを ’c’ とすると、材料に投資した資金から c × (X – (n×OE)) の収入が得られるので、これを金額Xに等しくしたいのです。(訳注:上記のことを一連の式で書くと次のとおり)

十分な資金とは、手持ちの現金で、業務費用 n×OE を賄った上に、キャパシティと/または市場の需要を最大活用するのに必要なものすべてを購入するに十分だという意味です。投資した材料コストで、市場のすべての需要または最も負荷の高いリソースの全キャパシティを賄えるなら、資金難から会社を助け出すという差し迫った状況で必要な額を超える、十分な資金だと言えるでしょう。

上記のパラメータの計算例を表2に示します。

パラメータ製品P製品Q
寄与率 (c) ~ S/TVC21.6
キャッシュ・コンバージョンサイクル (n)6週間3週間
1週当たりのOE$500$500
手元にある資金$2,000$2,000
生存可能時間4週間4週間
必要な生存資金: n×OE$3,000$1,500
適正存続資金: n×OE×{c/(c-1)}$6,000$4,000
キャパシティをフル稼働させるに必要な資金$1,000/週$1,000/週
十分な資金: n×(OE + $1,000)$9,000$4,500

この表を見ると、会社を資金難から救い出すには、製品Pを売るのに集中するよりも、手元に$4,001~$4,500の資金を確保して、製品Qを売るのに集中した方がずっと良いと分かります。仮に製品Qの市場が限られているせいで、材料の購入に週$1,000以上投資するのが難しいなら、$4,500以上の手元資金を用意して、内部の制約のキャパシティで製品Pにも十分なキャパシティを割けるようにします。そうすればもっと早く業績を改善できます。

上記の例は現実を単純化しています。通常は、手元に資金が$2,000しかなくても、パイプラインには既に投入済みのオーダーと材料があるのが普通です。ですから、キャッシュフローの状態は週ごとに明確に指定しないといけません。でも、原則は変わりません。

資金難から脱出するプロセス

資金が制約になった状況では、可能な限り多くかつ早く資金を稼ぐことに集中するということは、今手元にある資金を効果的に使うことです。本のわずかな資金の増加または減少が組織の運命を分けることもあります。スループットに非線形な影響を及ぼす現金の独特な性質が、会社を短期間に資金難から救い出す助けになるかもしれません。ほとんどの場合、キャッシュ・コンバージョンサイクルの短縮とキャッシュ・ベロシティの加速で、3カ月以内に資金の制約から抜け出せるでしょう。

キャッシュ・コンバージョンサイクル(n)の短縮は、スループット、資金の使用可能性、生存可能時間、適正存続資金など、多くのパラメータに非常に大きな非線形な効果を及ぼします。多くの場合、適切な評価尺度さえあれば、キャッシュ・コンバージョンサイクルを短縮するだけでも、資金難の状態から脱出するに十分です。

TOCには、顧客への価値の流れを加速する一般的なテクニックとして、オーダーの投入を抑えた上でバッファ管理を使ってキャッシュ・コンバージョンサイクルを短縮するという、優れた手段が既にあります。

キャッシュ・コンバージョンサイクルを短縮する方法は他にもあります:

それは、顧客の支払い期間の短縮です。大幅な早期支払いと引き換えの値引きは、CVをより加速するには極めて重要です。20%値引いても、顧客の支払いが4週間から1週間に短縮すれば、制約である資金をより効果的に活用したことになるはずです。もちろん、現金がアクティブな制約でないときに、これをやるのは間違った戦略です。

製造リードタイムの短縮も決定的な影響を与えます。製造リードタイムの短縮は常に良いことですが、特に制約である資金を最大限効果的に使うには極めて重要です。ここでも同様、TOCの既存の手法はすべて駆使した上で、追加の資金を使って残業することがもし可能なら、リードタイムを大幅に短縮して収益の増加を加速してから、結果を注意深く確認する必要があります。

資金という制約に特有な破壊的影響と制約の活用法の現実的な意味に関するこの考え方は、TOCの5段階集中プロセスの大きな貢献です。ここでは、とにかく資金が制約になった状態からの脱出が目的だということを忘れないでください。資金(現金)はシステム制約にしておけるリソースではありません!


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: Evaporating an Active Cash Constraint

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/