このシリーズの記事で述べる内容の要約は次のビデオを見れば分かります:
企業はあまりにも新製品を多く出しすぎです。新しい製品の多くは、売上げが好調でも追加のスループットは生み出しません。なぜなら、顧客は古い製品の代わりに新しい製品を買うだけで、売上げの合計は増えないからです。
世界中で多くの新興企業が真に差をつけようと必死です。その大半は市場に何か出す前に失敗します。本当に成功して利益を出しているのは、ほんの少数です。しかし、新技術の魔力は、一般の消費者だけでなく組織にも魔法をかけます。モノのインターネット(IoT:Internet of Things)のような新しい技術を採用するよう、常にプレッシャーがかかります。ときには、新技術の開発がうまくいって、売上が大幅に伸びることもあるでしょう。しかし、多くの場合は、莫大な投資が失敗し、市場を混乱させ、大きな財務損失を出しています。
新製品や新サービスを投入する目的は、顧客が得る付加価値を高めて、それによって会社の価値を生み出すことです! ですので、最新技術を用いた新製品と顧客が得る付加価値の間には、明確な因果関係がなければなりません。これと同じことは、新技術とは無関係の新しい製品やサービスにも言えます。
顧客にとって何が価値かをより深く理解するために、私は価値の3つのカテゴリー(詳しくはそれに関する記事を参照)を定義しました:
- 実用ニーズ
- 社会的なステータスあるいは威厳、品格
- 楽しさや喜び
「楽しさや喜び」の価値は、特に最終消費者にとっては高く、一般消費財(日用品)の大部分がそれに含まれます。ここで私が言いたいのは、楽しさや喜びを増すには、ある特定の新しい要素がなければならないが、新しいからといって必ずしも需要を惹きつけるに十分ではないことです。わずかな違いしかないと、普通は混同するし、返って楽しさの価値を損ないます。
組織は主に実用ニーズを満たすために購入します! 冷蔵庫のように実用ニーズが主な日用品もありますが、それには「楽しさ」の要素もあります。といって、新しいデザインが好奇心をそそるものでも、実用ニーズの製品を購入する判断は、主にどんな実用的価値が付加されたかによります。
ファッションなどの流行品はどれも、社会的なステータスや格が重要な価値基準ですが、楽しさや喜びの要素もあるのは確かです。
では、新しい製品やサービスが成功するために何が必要か、事前に見分けられるようになれるのか?
私は完全な答えは知らないのは自覚しています。しかし、「何かしら」知ることは、ひょっとして既に大きな利益かもしれません。以下の部分的なガイドラインは、主に実用ニーズの価値に的を合わせた領域でのゴールドラット博士の成果を元にして、少し適合度は落ちますが、社会的ステータスや楽しさがベースの製品やサービスにも当てはまるように補強したものです。
ゴールドラット博士は、新技術の価値を評価するための6つの質問を考案しました。それはモノのインターネット(IoT)の波に乗ろうとしているプロジェクトをチェックするにも、広く使えるはずです。私は、この6つ質問のパワーは、新しい技術だけに留まらず、もっとずっと広い範囲に及ぶと思っています。実際、この6つの質問が秘めた潜在力は、TOC初期の5段階集中プロセス(five focusing steps)のそれに匹敵すると思います。ですので、私はゴールドラット博士の言葉を使いつつも、全力を尽くしてもっと広範な波及効果を説明するつもりです。
質問1.その新技術(または新製品)のパワーは何か?
これに対する答えは、その新らしい技術/製品/サービスは、何ができて何ができないのか、その要点を述べなければいけません。また、それには、基本的な能力(または性能)とその限界、そしてコストの見当もいくらか含める必要があります。つまり、その答え全体として、新しい製品やサービスが有効な領域の線引きをするのです。
質問2.その新技術が除去または大幅に緩和するのは、現在あるどの制限または障壁か?
ここで言う制限は、潜在的な顧客や最終消費者の視点で見たものです。制限の緩和が、コスト削減のような売る側だけのものなら、その価値は評価に値しません。
ゴールドラット博士の表現は、実用ニーズのための製品に向けたものです。その意味は、もしその新製品が現在ある制限を何も緩和しないなら、付け加わる価値は何もないということです。
ゴールドラット博士はいつも意図的に制限を一つだけ訊ねました。顧客それぞれに、他のどれよりも大きな効果を生む本当に重要な価値の源泉が必ず一つあるはずです。現在ある制限の中に新しい技術で除去または緩和されるものが複数あるのは確かでしょうが、特定の制限の除去が一番大きな価値を生む源泉になるなら、そこは独立した一つの市場セグメントとして区別すべきです。
制限を克服する新製品の例:
例1:真空を保ったボックスに入れて販売される家庭用ワイン
最初の問いへの答えは: ボックスにはワインが1~3リットル入り、シールを開けた後3~4週間ワインの味を保てる。そして、パッケージ材がボトルより安い。
2番目の質問 - どんな制限が除去または緩和されるのか? への答えは:
取り除かれる実質の制限は材料コストではありません。少し置くとワインの味を台無しにする酸素に触れさせずに、全部のワインを美味しく飲み切ることができることです。因みに、この次にくる質問が、ある特定の制限を克服する価値をどのように明らかにするかは、次回の記事で分かります。
ワインは「喜び」を味わう製品の典型です。しかし、新しいパッケージ材の裏にあるアイデアは、その製品を使う実用性に繋がるので、私はそれは実用ニーズ向けの製品としての独自の価値だと考えます。
例2: ある薬局チェーンは、顧客から処方箋を添付したEメールを受信して、顧客本人が来店したら何時でも待たずに薬を受け取れるサービスを提供している。
この場合、取り除かれた制限は、顧客が行列で待つ間の「無駄な」感覚的時間です。「感覚的」と言うのは、行列で待つ時間は常に実際より長く感じるからです。
2番目の質問に答えようと思うと、組織として顧客が得る利益を集中的に考えて、顧客にとって何が最も重要な新しい要素なのか特定せざるを得なくなります。新しい要素の必要性は、娯楽や趣味向けの製品にも存在するので、実際それが真の制限ではなくても、今は無い何か新しい要素を加えて、何か新しい喜びや楽しみを生み出せないかにも目を向けなければなりません。
ここまでは先の長い旅のほんの序の口に過ぎません。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。