【ブログVol.62】販売キャンペーン - いつまでも結果の見えない悪い習慣

いつになったら、販売キャンペーンでビジネスが儲かるようになるのか?

まず、この記事での定義を明確にしておきましょう:

販売キャンペーンとは、特定の製品群を一定の期間内は値引き販売すること。

ですから、在庫処分の値下げは販売キャンペーンに入りません。ここで言う販売キャンペーンは、価格を元に戻す期日が明確に決まっているものです。

販売キャンペーンの終了日は、顧客に今の内にもっと買っておこうとさせるプレッシャーになります。しかし同時に、そのプレッシャーのせいで、キャンペーンが終わった後は、顧客は次のキャンペーンまで購入を控えるようになります。この点が価格競争と販売キャンペーンの違いです。

販売キャンペーンを使う理由は4つあります:

  1. 常連になってくれるのを期待して、初めて来る客をできる限り多く集める新製品の発表。時にはこの種のキャンペーンが有効な場合もある。
  2. 売上が予想を下回っている状態の回復策、または競合他社の販売キャンペーンへの対抗策。その目的は大量販売。これは、値引き販売が売上の大半を占める悪循環に陥る重大な原因になる。
  3. 小売店と流通チャネルは、商品を追加買いする客を店に呼び込むために販売キャンペーンを使う。この場合の問題は、直接のライバルも、こぞって同じやり方をするので、その付加価値が大幅に落ちること。
  4. 流通チャネルからの強制でキャンペーンに参加する。流通チャネルは、ビジネスルールを決める巨大企業である。弱い立場のサプライヤーは、圧政に耐えて生きるか反抗するか、うまく生き残る方法を見つけなければならない。

サプライチェーン内の依存関係を無視した販売キャンペーンには、4つの悪い副作用があります。

  • 単位当たりのスループット(T)の落ち込みを販売量の増加で吸収し切れず、総スループットが減少する
  • 突然の販売量増加(ピーク需要)で、少なくともひとつ以上のリソースがキャパシティを使い尽くし、高く売れる他の商品の売上が減少するのが普通。キャンペーンで負荷が急に増加して、最も弱いところが度々一時的な制約になり、残業や品質の問題の増加でコストが上昇し、組織の皆が需要の高まりの波を感じる。
  • 価格の低下で、プレミアム価格で売られる他の製品の売上が奪われる!
  • キャンペーン後の売上が大きく減少するという重大な影響がでる。   

この結果、販売キャンペーンは、利益よりむしろ損失を出す可能性が高く、その潜在的な損失は現時点ではほとんど分からないのです。その損失は、TOC流に言うと次の式で表現されます:

Δ(T) – Δ(OE) < 0 (訳注:スループットの増加より、業務費用の増加が大きい)

ですから、販売キャンペーンの提案を検討するときの、最初のミッションは、製品を大量に売るプラスの効果に比べたマイナスの副作用をちゃんと評価することです。スループットよりも売上を重視するのが最大の過ちです。価格を下げると、単位当たりの収益より単位当たりのスループットの方が遥かに大きくダウンします。したがって、コストの増加も計算に入れて分析しなければなりません。

最終利益へのキャンペーンの正味の影響を計算する上で一番難しいのは、キャンペーン中とキャンペーン後の需要の見積もりです!

ということで、2つの仮のシナリオ、つまり、まあ妥当な悲観的とまあ妥当な楽観的な2つのシナリオを考えるのは、マイナスの副作用の影響全体を確認して、取るべきアクションを導き出すにはよい手段です。

販売キャンペーンは、販売と製造両方に影響を及ぼす典型的な行動です。そして、キャンペーンの終了日は、顧客の行動に影響を及ぼします。製造現場は、非常に大きな負荷のピークに見舞われ、沈静化に長い時間かかる優先順位の変化に悩まされます。売上金額または販売数量で表わされる売上高の追求に夢中になるあまり、本当の経済的貢献が見えなくなります。

しかし、ほとんどの販売キャンペーンで損失が出ると気づいても、キャンペーンに関わる下記の2つの本質的なジレンマは自然には解消しないでしょう。

ひとつ目のジレンマは、競合が売上を奪うようなキャンペーンを仕掛けてきたときに生じます。こちらもキャンペーンで対抗すべきか? 市場のシェア維持が大事だという主張は間違いです。なぜなら、価値のある目標は高く安定した利益であり、市場のシェアを維持すればそうなるのか分からないからです。であれば、競争相手の値下げを無視するのが正しいのか? もし特定の市場セグメント向けの本当に優れた製品がこちらに無いなら、競争相手の理屈に追従せざるを得ないという犠牲を払うことになります

もう一つのジレンマは、流通チャネルが仕切るキャンペーンへの参加要求を受け入れるか、自分の製品が外されるかもしれないが、あくまで自分の利益に拘るかです。ここでも同じことですが、これは、購入する最終的な顧客から見て、こちらの製品がライバルと実質差が無いときにしか生じません。

どうしても販売キャンペーンをしないといけないなら、その期間中製造現場はどうすべきか?

販売キャンペーン初日から需要が大きくなり始めます。最終的に実際の需要がどうなるかは非常に不確実で、潜在的な需要の幅は相当広くなります。ですから、狭い幅で需要を見積もれるのは開始後の1日か2日です。また、キャンペーン期間の長さは、短時間の補充で対応できるかどうかにとって非常に重要です。キャンペーンの期間が短かければ短いほど、最初により多くの在庫を中央倉庫と店舗両方に持っておかなければなりません。

短い期間のキャンペーンでは在庫バッファに関するジレンマが生じます。楽観的な予測を取れば非常に大きなバッファになりますが、実際の需要は悲観的な予測に従うかもしれません。しかし、悲観的な予測に頼ったバッファサイズにすると欠品が発生する可能性が高くなります。少ないバッファから始めて、キャンペーン中にそれを増すには、相当大きな余剰キャパシティを確保しておく必要があります。

私のお勧めは、キャンペーン期間全体の悲観的な需要予測を十分賄える在庫を中央に用意しておくことです!!!

どの店舗も、開始前にその店の楽観的な予測の少なくとも2日分賄えるだけの在庫は持っておかないといけません。キャンペーン開始1日か2日後なら、店舗内のバッファをすべて再調整しても、ひょっとしたら上手にやれるかもしれません。また、過剰な在庫から始める中央倉庫は、キャンペーン開始2日後に目標在庫を計算して、その後は、在庫がその目標を下回ったときだけ在庫を補充するようにします。

季節性(シーズナリティ)への対応と同様、キャンペーンが終了するいくらか前に、すべてのバッファを元のサイズに縮小しておくことが必須です。

販売キャンペーンの害は大きく、その最も重大な要素は終了日の固定です。これは、私がイールドマネージメントを取り上げた記事で紹介した動的価格設定と似たようなもので、顧客の自然な行動を変えてしまいます。

この問題の本当の救済策は、多くの得意客に独自の価値を提供できる決定的な競争力(DCE:Decisive Competitive Edge)を獲得することです。それはいつでも可能でしょうか? あなたが真剣にその可能性を考えない限り、あなたにはそれが不可能だと言う資格はありません。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: Promotions – a problematical habit with ongoing consequences

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