【ブログVol.66】スループット・ダラーデイズ(TDD)と在庫ダラーデイズ(IDD) - その価値と限界

お金に時間を掛け算する考え方は、非常に長い間ゴールドラット博士の頭から離れませんでした。お金時間2つの異なる次元であり、その2つの積はそれらの複合的な影響を意味します。

バリューデイズ(value-days)は、金融分野では非常に長い間知られていますが、実体のあるものをひとつ付け加えておくと、「延滞日歩(貸出歩合)」(price of money)という考え方は他でも広く使われています。お金と時間を掛け算した値は、他のタイプの価値と同様にお金に変換できます。 「貸出歩合」は、いわゆる金利で、投資だけでなく融資の金銭的価値も定量化できます。それについてはこの記事の後半で詳しく述べます。

ダラーデイズの使用は、下記を表現する尺度として大きく偏ったある評価尺度に取って代わるものです。

提供すると約束したことを守れなかった損害

ですから、スループット・ダラーデイズ(TDD:Throughput-Dollar-Days)は、その定義からして負の評価尺度です。つまり最高点はゼロです。TDDの主な使い道は、オーダーを納期どおり全部納めたかどうかを評価することです。顧客への約束に対して納入が遅れた場合は、そのオーダーのスループット(T)と遅延日数の積を使って評価する方が、単純な納期遵守率よりはるかに優れています。なぜなら、遅延した場合を考えると、その遅延を最小限に抑えようと努力する動機になるからです。そうでないと、遅延した途端評価へのダメージが確定するので、それ以後納入を急ぐ理由が無くなるという懸念が現実になります。

約20年前、イスラエルの航空会社エル・アル航空の機長たちは、予定通りターミナルから戻ったかどうかで評価されており、それに基づいてボーナスが決められていしました。旅客の私には予定を守ろうとする努力が分かりました。しかし、一旦遅れてしまうと何も気にするものが無くなって、人々は走るのを止めゆっくり歩き始める様子を見て私は驚きました。

ところが、TDDは負の副作用をいくつか生じます。オーダーひとつのスループット(T)は評価の重要な因子です。しかし、本当に$ 500より$ 1,000のオーダーの方を黙って優先したいですか? この評価法は、市場の評判へのダメージ、顧客の特性やその顧客との取引量を考慮しません。オペレーションの現場でのTOCの公式な優先順位付け方式であるバッファ管理では、優先順位を付けるのにオーダーのTをまったく無視します。そうだとすると、TDDは優先順位付けの余計な仕組みなのでしょうか?

もう一つの疑問、なぜオーダーの収入ではなくスループット(T)を使うのか? 顧客の観点で見たオーダーの価値は支払うお金全額です。私たちは、できるだけ早く、TVC(真の変動費)を含む全額を支払って欲しい。収入をTVCとTに分割するのは、予定通り支払いを受け取る必要性とは無関係です。そうなると、評価尺度としてはRDD(収益×遅延日数)を使うべきではないでしょうか?

ダラーデイズ(DD)について私の一番の問題は、それが直感的でないことです。DDは、正味の価値と比べると、混乱するほど非常に大きな数字になります。たとえば、60日遅延した$1,000のオーダーは60,000 DDです。真の状況がこのひとつの数字に反映されていると、どうして明言できるのでしょう?

ゴールドラット博士は、サプライチェーン全体でTDDを重要な評価尺度にして、販売で起き得る損失に対する責任をすべてのリンクに担わせたかったのです。現実的な問題は「在庫を持って販売する商品のTDDをどうやって評価するか?」でした。 欠品すれば売上げがいくらか減少すると懸念されるが、どれくらい減るかは不明確です。実際には予測を根拠にしている日当たり売上げの統計を使うことも可能です。問題は、予測は非常に紛らわしいし、多くの人々はちゃんとその意味を理解していないことです。

私の結論は、TDDは本当に価値を生む可能性を秘めているが、そのロジックを再吟味し、変えるべきは変える覚悟がなければならないということです。それに関して異論や新しいアイデアがあれば大歓迎です。

在庫ダラーデイズ(IDDInventory-Dollar-Daysは、多分TDDと対になる概念ですが、実は別の概念です。TDDは約束どおり納入できなかったことを表現し、IDDは在庫への投資効果を表すというのが、元々の考え方でした。

IDDは、在庫品それぞれに実際支払った金額と購入後の経過日数を掛け算して集積した値です。つまり、価値を生むことなく内部に滞留していた時間と組み合わせた投資済みの資金を表します。

そういうわけで、TDDを低く抑えるには、まず在庫への投資が必要です。それには、適正なTDDを達成できるIDDの「適正な」基準値を設定するための分析をしなければなりません。

では、IDDは本当に投資の有効性を表わすのか? IDDは、IDDの計算から外れる品物が実際お金になったのか、ただ帳簿から消されただけなのかは考慮しません。また、売ることなく品物が在庫に眠っているか生産されている間に、実際の貨幣価値が変わってしまうかもしれませんが、IDDはそれに関わることはできません。実際の価値は品物が売れて初めて分かるのです。

ならIDDからどんな価値が得られるのか?

それを使えば高価な品物と長い時間在庫に眠っている品物の両方が識別できます。そういうものはIDDの計算に最も大きく寄与するので、オペレーションの現場は早く処分しようとします。また、購買部門はそういうものを一度に大量に注文するのに慎重になります。そういう動機が大事だというなら、高価な品物とその利益を組み合わせて、そういう品物を見分けられませんか? それとも直感的でない数字を使う方がよいですか?

IDDは在庫のためのもので、それ以外の投資には使えません。たとえば新しい機械を購入したとします。何年もそれを使うつもりです。ダラーデイズ(DD)は機械を購入した日からの累積です。しかし、その機械が生み出すスループット(T)を考えないでインフラにIDDを使っても役に立ちません。

そういう投資を測る指標として「フラッシュ」という概念があります。ダラーデイズ(DD)は最初の投資とともに始まります。つまり、その日から負のダラーデイズの累積が始まるのです。追加の支出が出れば負のDDが大きくなります。一方、Tが生まれるとその分正のDDが足されます。うまくいけば、ある程度の期間で投資のDD収支がゼロになり、投資DDが全部回収されます。因みに、フラッシュは、投資した元金のDD収支がトントンになるまでの日数です

投資コストの回収時間という単純な尺度よりもこのフラッシュの方が優れています。

しかし、DDをお金に換算する正味現在価値(NPVNet-Present-Value)よりもフラッシュの方が優れているのか?

フラッシュはDD収支がトントンになった後どうなろうが一切無視です。さらに収入が増えるかもしれませんが、フラッシュには何の影響も及びません。また、「貸出歩合(つまり金利)」の考え方はあっさりとは無視できないと私は思います。それは投資を評価するには単純だが効果的な方法です。

投資の評価で本当に難しいのは、それに関わるリスクです。フラッシュもNPVもよい答えをくれません。

もう一つフラッシュが提起するユーモラスな問題:人が娯楽にお金を使うとそのDDは無限大に大きくなる。これはあなたの直感と合ってますか?

もっと深く議論しますか?


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: Throughput-Dollar-days (TDD) and Inventory-Dollar-Days (IDD) – the value and limitations

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