【ブログVol.78】Small-TOCとBig-TOC - TOCの忌々しい重大な問題への取り組み

TOCは今岐路に立っています。製品とサービスのフローを改善してデリバリの信頼性を高めるための、よく知られ明確に定義された方法論が既にあります。それと同時に、我々はゴールドラット博士から、因果関係を分析するツールをちゃんと使って、組織の成功を邪魔している一番の問題を突き止めて、将来起き得る悪い影響を示し、今当前と思われている間違った仮定を覆して、新しい勝利の戦略を見つけなさいと教えられてきました。因みに、クリティカルな問題が必ずしも製品やサービスのフローを害するものだとは限りません。多くの場合、それはそもそも間違った市場の選択にあり、市場のニーズを見誤ったか、従業員のモチベーションを削いだことにあります。

ここに私たちの対立(またはジレンマ)があります: よく知っている事をやって、よく知られているものを売るのか、そうではなく、TOCとおそらく他も含めた様々なツールを使い、より多く達成しようとする組織を邪魔する本当の問題を解決して、天をも超える飛躍的な成長を目指すのか。

私が思うに、その対立は次のとおりです:

よく知られ明確に定義されたTOCの方法論と言うと、DBR(Drum Buffer Rope:ドラム・バッファ・ロープ )、SDBR(Simplified- Drum Buffer Rope)、バッファ管理(Buffer Management)、在庫補充(Replenishment)、CCPM、そしておそらくスループット会計(TA:Throughput Accounting)です。 しかし、TOC全体を見渡せば、TP(思考プロセス)、新技術に対する6つの質問、S&T(戦略・戦術)、SFS(Solutions for Sales/Support for Sales)、TOCの柱(4本柱)、不調和のエンジン(Engines of Disharmony)、それ以外にも、まだ一貫した知識体系としてはうまく組込めていないが、多くの知見や洞察が含まれています。

上の図は、クラウド(対立解消図)と呼ばれ、「よく知られ効果が実証済みのTOCの方法論」ではないツールの1つですが、TOCコミュニティ内の忌々しき問題をうまく表現しています。 上段は、素晴らしい結果が得られると立証済みで、(それに集中すれば)よく売れる「Small-TOC」の考え方を表わします。一方、下段は「Big-TOC」の考え方を表わしています。それは、部門レベルの成果を統合することで全体としての業績を改善しようという考え方なので、より高い価値をもたらし、より普遍的ですが、売るのはより困難です。

初めて言うのですが、私が思うには、次のような新たな好ましくない結果(UDE:Undesired-effect)があります:

製品/サービス/プロジェクトのフローを改善する領域では、他の方法論との競争がどんどん激化している。

ここで重要な点は、それら競合する新しい手法は、TOCより劣っていても、既存の手法よりは優れているので、The Goalの読者を含む有望な見込み客の心理を糧に勝負していることです。ですので、そういう手法は、Small-TOCとは競合しても、Big-TOCとは競合しません。例として、リーン(Lean)、DDMRP(Demand Driven MRP)、アジャイルだけ挙げておきます。この仮定に同意いただけるなら、Small-TOCを売る優位性は危ういもので、一時的なものに過ぎない可能性が高いのはお分かりでしょう。

Small-TOCのインプリメントは、大部分が部門レベルなので、経営トップの全面的な支持は必要ありません。しかし、Big-TOCの方は、会社全体を一体化することで、安定かつ成長し続ける望ましい状態にするところが優位性なので、直接経営トップに売り込んで納得して買ってもらわないといけません。

先ほどのクラウドはどうやったら蒸発するの?

Big-TOCを売るのが難しいのはもちろんですが、Small-TOCを売るのだって簡単とはとても言えません。

売るのが難しいというこの重大な仮定を覆せる有力な解決策は、Alan Barnard博士が言うように、次の2つの重要な質問に答える方法論としてTOCを提示することです:

  • どれほど改善するか? 言葉を変えれば、組織の業績がもっと大きく伸びるのを制限しているのは何か?
  • 最も簡単で最速、低コストかつ低リスクで、それを達成する方法は何か?

これらの質問は、ホリスティックかつ包括的なので、組織の経営幹部に問うべきものです。この2つの質問を顧客が実際に得る価値を使って言い換えるのは簡単ですが、質問に対する答えとしてTOCが有効でまず間違いない答えだ顧客が本当に信じてくれるのか、という疑問が沸いてくるはずです。まして、どう考えても、「コンサルタント」に組織の戦略を任せるのは恐怖です。それは個人でも同じです(私をどうするつもり?)

The Goalの読者みたいにTOCをある程度知っている経営幹部を説得する場合の障害には、本当に経験豊富なTOCの専門家が緊密に連携して、2番目の質問の最も効果的な答えを達成している大きな組織が存在するのをその顧客が知れば、ずっと容易に対処できます。

TOC以外の有名なコンサルティング会社の何社かと比べたら、そう驚異的に伸びているわけでなく大きくはありませんが、今伸びている比較的大きなTOCのコンサルティング会社が2つあります。彼らは、すべてのインプリメントに高レベルのコンサルタントを何人か参加させて、予期しない兆候を素早く発見して適切に対処できる確率を高めることで、リスクを小さく抑えています。それは正に、顧客が非常に経験豊かな人々の集団に求めるものでもあります。

TOC Globalは、TOCの専門家の様々なグループの経験と知識を組み合わせることで、組織のパフォーマンスを制限するタチの悪い問題を解決することを目的とした、TOCの新しい非営利組織です。TOC Globalは、トップのコンサルタント、指導者、実務家からなる国際的なネットワークで、彼らは、認知度、導入率、実際に生み出す価値、さらにはTOCのインプリメントの持続可能性を大きく向上させるためなら、喜んで時間と労力を提供する覚悟ができています。 TOC Globalがやろうと決めた主なルートは次の3つです:

  1. 新しく立ち上がる、または現在進行中のTOCの導入を支援して、極めて高い価値を生む。これは、個別の問題を解決するための活発な対話を通じて、現地のコンサルタントと実践者を指導して、問題の裏に隠れた前提を覆し、実行に移そうとするマネージャーを邪魔する恐怖を取り除くということ。要は、インプリメント個別の厄介な問題の対処への支援を受ける気のある人々を助けること。専門家の無料相談サービスは、この方向への第一歩である(info@toc-global.comにEメールをください)。
  2. タチの悪い難しい問題を選んで、プロジェクトを立ち上げてそれを分析し、慎重に実験を行って、最終的に特定の組織とそれに似た組織に極めて大きな価値をもたらす効果的なソリューションに仕上げる。
  3. マーケティングに力を入れてTOCの認知度を高める。

この活動は、もう1つの望ましい結果をもたらすでしょう: 現在のTOCの知識体系をより完全でより有効なものに変えること。 非営利団体なので、どんなTOCコミュニティとでも、学んだ教訓と新しい知識を共有できます。

Big-TOCは、問題を解決するためのワクワクするような新しいアイデアのどれにもありそうな悪い副作用(NBr:Negative Branches)を常に探しています。特定の人々をTOC Globalに集めれば、他のTOCの専門家との間で争いが生じる恐れがあるのが自然です。その悪い副作用を刈り取る唯一の方法は、非常に強力な倫理規定を設けることと、自ら率先して他の人々に協力し力を合わせる覚悟をしておくことです。 TOCの本当の競争相手は、リーンやシックスシグマではなく、大手のコンサルティング会社です。Big-TOCは、真に重要な問題にフォーカスし、よりリーンでより協調的なプロセスを提供し、組織が自らの価値ある直観を言葉にできるよう助けて、シンプルさと信頼をベースにした極めて大きな価値を生み出します。これは、敢えて言うなら、よりアンチフラジャイルになる一番正しい方法です(訳注: 悪いときは落ち込みが小さく、良いときは大きく伸びるという体質になるということ)。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: Small-TOC and Big-TOC – dealing with a key wicked problem of TOC

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/