【ブログVol.40】MTAの基礎を支える主な本質的知見

見込生産あるいは在庫管理の限られた領域を対象にした話し

私はこれまでMTAMake-to-Availability)のインプリメントでビックリするような間違いを沢山見てきました。特にそもそもアベイラビリティを提案すべきでなかったことが多かった。それ以外の間違いを見ても、その基礎になった重要な考え方(洞察、知見)に対する誤解があることが分かります。まず私の理解に基づいて、「在庫補充(Replenishment)」と呼ばれる方法論の基礎になっている主な考え方を言葉にしておきたい。その上で、次回の記事では、現在知られている「MTA」向けのTOCソリューションの境界について述べます。

Make-to-Availability(訳注:アベイラビリティを保証する見込生産)」という言葉は、所定の品物が欲しいときはいつでも所定の倉庫で在庫が見つかることを見込み客に約束するような環境を特徴づける言葉として、ゴールドラット博士が作った造語です。ゴールドラット博士は、そういう安定したアベイラビリティを保証することで、はるかに大きな需要を獲得できて、おそらく高い価格で売れるはずだと考えました。

「MTA」あるいは「在庫仕入れ(Purchase-to-Stock)」はいずれも、不確実性に対する備えです。必ずしも都度在庫品を製造か購入するのではないと言う意味で、「MTA」は「見込生産(MTS:Make-to-Stock)」には違いありませんが、その目的はあくまで卓越したアベイラビリティを保証することです。ところが、その真逆のメッセージになっていることが多々あります:「もうすぐ品切れでーす!!!」  こういう「売り方」の裏には、品不足をアピールして顧客に買い急がせようという考えがあります。

在庫管理(アベイラビリティを保証しない場合も含む)におけるTOCソリューションの知見#1:

在庫を実際の需要に完全に一致させることは決してできない

この知見から、売れ残りを抱えるか、欠品で売り逃すか、どちもある現実がすぐ理解できます! では質問です: どっちの方が損害が大きいですか、欠品それとも売れ残り? 必ずとは言いませんが、ほとんどの場合、顧客を失望させるより、どちらか言えば本の少し余分に持っておきたい。アベイラビリティを保証するなら、間違いなく、平均の需要よりは多く在庫を持つ方を選びます。ただし、多すぎても困りますけれども。

在庫管理における不確実性の発生源は2つです。需要の不確実性と供給の不確実性です。一般的な予測方法は需要の方しか見ません。どういう予測法であれ、厄介な問題は、期間が長くなると予測誤差が急に大きくなることです。そういうわけで、需給と供給の複合効果の認識と卓越したアベイラビリティを提供したいという願望から、次の知見が得られます。

知見#2:

適正な在庫を見積もるのに妥当な期間は、消費してからそれを再補充するまでのリードタイムである

この知見の意味は、その時間内であれば、需要のどんな変化にも適切に対応できる柔軟性が供給する側にあるのだから、そもそもそれ以上長い期間の予測を使うべきではないということです。

上記のとおり予測する期間は供給リードタイムから決まるとして、高いアベイラビリティを保証するには、どれくらいの在庫を持たなければいけないのか? 当座の需要は手持ちの在庫で賄います。そして、手配中の在庫、つまり未完了の補充指示で残りの期間をカバーします。それでちゃんと優れたアベイラビリティを維持できているなら、その在庫量を一定に保たないといけません。その実務的な意味は次のとおりです:

知見#3:

少しでも在庫を消費したら直ぐその分再補充(指示/注文)する  –  消費した分だけ

そうすれば、システム内の在庫、つまり手持ちと手配中の在庫を合わせた総量が一定に保たれます。そして、在庫がちゃんと役目を果たしていると思える限り、つまり、目に見えるほど多すぎない在庫で、高いアベイラビリティを維持できている間は、バッファを変更する必要はありません。

次にバッファ管理はというと、実行段階で処理の優先順位を示すことで、アベイラビリティを保証できる新しい能力をもたらします。この能力は主に製造業にとって不可欠です。

知見#4:

手持ち在庫のバッファに対する相対な比率が、未着の補充指示個々の緊急度を示す

実はこれは非常に画期的なアイデアです。普通は、補充指示それぞれに納期を割当てて、その納期に応じて補充指示の優先順位を判断します。しかし、在庫の管理においては、納期は人為的なものにならざるを得ません。なぜなら、指定した量を将来の特定の日にすべて本当に欲しい者は誰もいないし、再補充されるまでの間の売れ行きの変動で、その補充指示の優先度が変わるからです。ですから、在庫のバッファ管理のアルゴリズムでは、納期を割当てる代わりに、手持ち在庫の実際の状態を見て、それに応じて補充指示に優先順位をつけるようにします。

バッファ管理はもう一つ重要な能力をもたらします。それは新しい種類の予測法で、在庫バッファが小さ過ぎて高いアベイラビリティが保証できない、あるいは、逆にバッファが大き過ぎて余剰在庫を抱える恐れがあるときは警告を出します。これは上記の知見の拡張です。

知見#5:

手持ち在庫の挙動は、高いアベイラビリティを保証する効果的な在庫量を決める、需給と供給の複合効果を予測するのに使える

動的バッファ管理(DBM:Dynamic-Buffer-Management)と呼ばれる方法は、この知見を根拠にしたもので、在庫バッファを大きくまたは小さくすべきかどうかの助言をします。それは過去に基づいて未来を予測するので、私はあえて「予測」と呼んでいます。しかし、それは需要と供給の複合効果を見て必要な在庫量の指針を示すので、今までとは別の種類の予測法なのです。

もう一つの重要な知見は、在庫を置くのに最も効果的な場所を見つけることに関するものです。

知見#6:

全体としての不確実性を小さく抑えるには、より中央(より上流)にメインの在庫を置くべきである

この直接の恩恵は、同じ水準のアベイラビリティを保証するのに、全体としてより少ない在庫で済むことです。この知見は、流通チャネルはもちろん、様々な製品に共通する中間部品を抱える工場にも当てはまります。共通の中間部品の在庫を持てば、需要に対するレスポンスを短縮し、システム全体で必要な在庫量を削減できるでしょう。

ここで警告: 様々な場所で必要な在庫を中央に集中すれば、全体としての不確実性が小さくなるのは確かですが、その低減効果はしばしば誇張されています。集中型の在庫によって、あちこちローカルな変動は吸収できますが、グローバルな原因で起こる変動は吸収できません。たとえば、好みは場所場所で違いますが、経済の変化は至る所で需要に影響を及ぼします(訳注:同じベクトルの影響が出るということ)。

次回は、MTA向けのTOCソリューションの境界の話をする予定です。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: The main insights behind Make-to-Availability

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/