DBR(Drum-Buffer-Rope:ドラム・バッファ・ロープ)は、TOCの製造向けの計画立案法です。この記事では、顧客が製品と数量、納期を指定する受注生産(MTO:Make-To-Order)のためのDBR/ SDBRについて述べます。在庫生産の境界については別の記事で扱います。また、計画の立案だけでなく、実際製造する間の優先順位を示すバッファ管理にも触れます。
私は、DBRの詳細やDBRとSDBR(Simplified-DBR)の違いを議論するつもりはありません。DBR/ SDBRの原理が有効な環境について簡単に説明したいのです。たとえば、プロジェクトではDBRがうまく機能しないことが明らかになったので、ゴールドラット博士はCCPMを開発したのでした。読者の皆さん、DBRの基本的な前提条件の何がマルチプロジェクト環境では有効でなったのか、またその逆がちゃんと分かりまかすか?
そのベースになる環境は、明確に定義された製品やサービスのパッケージを所定の期間内に納入するよう顧客から注文を受ける、製造業やサービス業の組織です。それらの組織は、完成品の在庫は持たないのが普通なので、注文されたものを製造する必要があります。つまり、受注したら、サプライヤーから材料を仕入れて、顧客が注文したものを製造しないといけないかもしれません。
DBR/ SDBRの導入で高い納期遵守率と高い信頼性を達成するための、不可欠かつ基本的な前提条件:
- どの製造指示も、正味のタッチタイムがリードタイム(投入から完了までの時間)に比べて非常に短い。
- ゴールドラット博士は、タッチタイムはタイムバッファの10%未満だと仮定した。
- それ以外の時間は、必要なリソースが空くのを製造指示が待っている時間であり、リソースの多くは稼働率があまり低くない。
- 現場の統計的変動自体はさほど大きくない。
- たとえば、平均の段取り時間が2時間だとすれば20時間かかることはまず無い。
- その環境では、全般的にプロジェクトに比べてはるかに小さな変動しかない!
- この仮定はスクラップにも当てはまる。製造指示丸ごとスクラップになることは考え難く、非常に稀である。
- つまり、現場はどの段階でも十分良い品質を確保している。
- サプライヤーや外部委託先をまあ満足なレベルでコントロールできている。
- すべての製造(サービス)業務が同じ場所か十分近いところで行われるので、施設間の輸送時間はタイムバッファに比べて短い。
- この前提は1番目の前提の延長と見なせる。したがって、輸送や乾燥の時間も、「タッチタイム」に含むことは知っておかなければならない。
そして、バッファ管理で一つ重要な前提条件は:
- ほとんどの製造指示は、イエローゾーン内に完了するか、レッドゾーンに食い込む当たりで完了する。
これらの条件のどれか一つでも有効でないとDBR / SDBRが使えないとまでは言いませんが、一定の変更は絶対必要になります。
そこで、この方法論へのタッチタイムの影響をもう少し説明しておきたい。実は、タッチタイムに対する前提条件が、製造とマルチプロジェクトを分ける一番の違いです。私たちは、プロジェクトでは、クリティカルチェーン上のタスクを実行するに必要な時間が、プロジェクト全体を終えるに必要な時間に等しいと想定しています。この前提は、工程間に非常に長い待ち時間がある製造とは際立って対照的です。この重要な違いのために、「クリティカルパス」や「クリティカルチェーン」という言葉は、製造環境に用いるのは適切ではありません。
なら、ある工程のタッチタイムがバッファの30%くらいになると、一体どうなるんだろう?
SDBRでは、バッファの保護対象は、原材料を投入してから完了するまでの製造プロセス全体です。一つの工程でその30%も使うとなれば、次の2つの重大な問に答えないといけません:
- そのバッファ時間で、製造プロセス全体の変動から納期を守るのに十分か? つまり、30%のタッチタイムは保護時間から引かないといけないので、残り70%の時間で納期を守るに十分か? ということ。
- DBR/ SDBRのバッファ管理では、製造指示が今どの工程にあるかはバッファの状態に反映されない。なぜなら、タッチタイムが無視できるときは、大して問題にならないからである。しかし、ある特定の工程でバッファの30%も使うとなれば、製造指示がその長い工程を通過したか否かは大きな問題である。仮にまだその長い時間かかる工程の上流にあるとしたら、残っている実質的なバッファは、納期までの残時間に比べて相当短い時間になるからだ。
こういうハイタッチタイム(訳注:リードタイムに対するタッチタイムの比率が大きいとき)の問題に遭遇したSDBRにおけるバッファ管理の新しい運用法が開発されており、2012年のTOCICOカンファレンスで発表されました(Lisa Scheinkopf、岸良祐司、Amir Schragenheim)。これは、前述の基本的な前提条件が有効な境界はどこなのか、そして、ある特定の条件が有効でないとき、どの程度の変更が必要になるかを理解するには、ひとつのよい例になります。
ここで述べた前提条件は、受注生産(MTO)に対するものだということは、改めて強調しておくのが重要でしょう。 実は、MTOとMTA(Make-To-Availability、訳注:アベイラビリティを保証するための見込生産)の決定的な違いは、DBRとSDBRの開発よりずっと後になって認識されました。MRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)とDBRの両方とも、特定の数量を特定の期日に納入するという前提条件が明確な言葉で述べてありませんでした。しかし、その前提条件の役割が明らかになった直ぐ後、MTAのために別の方法が開発されました。このとき学んだ教訓は、根拠になっている前提条件を言葉にすることに全力を尽くすべきだということと、それが特定の方法論が有効に機能する境界を定めることにもなることです。そうすれば、我々はその境界を越えた環境に居るときそれを識別できるし、元の方法論とそう変わらないか非常に違うかは別にして、適用したい環境に合う適切なソリューションを見つけることができます。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。
この記事の原文: The boundaries of DBR/SDBR