私が大文字のSで始まる戦略(Strategy)を使うのは、ゴール以上のことを成し遂げる計画を意味するときです。戦略・戦術ツリー(S&T:Strategy and Tactic Tree)と呼ばれるテクニックは、最終目標(ゴール)の達成に至る中間目標(IO:Intermediate Objectives)とそれを達成するアクション、およびその背後の前提条件をすべて関連づけて一つにまとめた計画を記述する書式に他なりません。
そういう書式が必要なのは、どんな戦略であれ、互いに一定の依存関係がある多くの要素を含むからです。たとえば、うまくやれば大きな需要を生む有望なアイデアをマーケティングが見つけても、オペレーションの現場が市場の期待に応えられるものを提供できなかったら駄目です。もう一つの問題は、他の製品やサービスの販売にどんな影響を及ぼすかです。その他にも、計画段階で考慮しておくべき多くの潜在的な依存関係が存在します。普通のドキュメントやHTML形式よりもツリー形式の方が、異なるIO(中間目標)とそれに関連したアクションの間の繋がりが見やすくなります。
参考としてS&Tの一般的な構造を示した下の簡単なツリーをちょっと見てください。DCEという言葉は、将来有望な潜在顧客に他に無い独自の価値を提供する決め手になる「決定的な競争力(Decisive Competitive Edge)」を表わします。
S&Tツリーの構造は、組織の部門それぞれが何を求められていてそれをどう達成しないといけないか、よく分かるようになっています。しかも、自分以外の人々がその目的・目標を達成するために何をしないといけないかも、皆から見えるようになっています。あなたの組織の現状がそうなっているか、自分で確認してみてください。
ゴールドラット博士の卓越したもう一つの洞察は、中間目標をそれを達成するアクションから分離したことです。上の図は、複数の「戦略」(中間目標IOと同じ)から成る基本的なS&Tツリーです。計画を立案する人は、すべての戦略エントリ(訳注:図上の一つのボックス)各々の中に、そこで取るべきアクション、何故その戦略(IO)を達成しないといけないのか、何故そのアクションがその戦略を達成できるかを述べた前提条件(または仮定)を明確に述べなければなりません。今の私たちは、そのツリーをどう構築して、目標とアクションの両方をどう言葉にすればよいか知っており、一連の仮定からそれらの正当性を示し、戦略としての完全性を高めて、より高い目標を達成できる確率を高くする十分な経験の蓄積があります。
といっても、S&Tツリーは書式に過ぎないのは変わりません。アイデアはもちろん、それが及ぼす影響を分析して遂行し達成する能力は、S&Tツリーの形式を使うかどうかには左右されないのです。そもそも、S&Tツリーにする以前に、直感的な戦略は組織の幹部の頭の中にあってしかるべきだというのが、私の強い信念です。決め手になる決定的な競争力(DCE)のアイデアは、既に明確になっていて当然です。組織をどう動かすかの選択肢の議論は、S&Tツリー形式で詳細な計画を作り始めるまでに終わっていないといけません。
しかし、全体戦略はS&Tツリー形式で作る方が、成功の可能性が従来よりもずっと高くなると、私は信じています。
私はここでS&Tツリーの講義をするつもりはありません。www.harmonytoc.comにアクセスすれば、オンラインでそれを学ぶことができます。まずそれを体験することをお勧めします!
S&Tツリーには取り上げておきたい限界が2つあります。しかしその前に、実際は存在しないと私は思うが、一見障害のように見えることについて、私の意見を述べておきたい。
S&Tツリーを書くのは、高度な専門知識を要す繊細な仕事だというのが一致した認識だ!
こんなのは事実無根です! 私は、言語表現や仮定(前提条件)の文にあまり神経質になるのは反対です。自分としては、会社の幹部が背後の意図を解かって同意している限り、目標(戦略、IO)や仮定が最も効果的な言葉で表現されているか否かは気にしません。とにかく、表現の難しさを怖がるTOCのコンサルタントや実務家が多すぎると思います。失礼を承知で言うと、S&Tツリーの記述は非常に容易であり、あなたが「間違って」適切でない階層にエントリを書き込んだり、長すぎる文章を書いたりしても、見て分かるほどのダメージは無いと私は思います。
さて、私が分かっている限界は以下のとおりです:
- 下位と上位のエントリの間のリンケージにある程度の曖昧さがある。下位の目標(戦略、IO)の一部しか完了していないとき、上位では何が達成されたのか分からない。
この図でエントリ2.1がうまく達成されたとすると、エントリ1はどうなりますか? 当然、上位の目標全部が達成されたとは思えません。でも、上位でも何かしら得られたのではないでしょうか? それはツリーの繋がりからは分かりません。言えることは、下位の3つの目標をすべて達成したら、上位の目標が完全に達成できるというだけです。どんな計画でも、実行時は進捗が順調か遅れているか示すシグナルがないと困るので、S&Tツリーの基本的な書式にそれが欠けているのは残念です。一部分を終えたら何が得られるか、ともかく何かS&Tツリーに付属していないといけません。 - S&Tツリーにはバッファが含まれていない!
私は必ずしもタイムバッファでないといけないとは言いません。S&T全体を終える期日やリードタイムが必要だと言う人もいます。そのような期日の価値は、それに関わる重要な人物全員にコミットメントを強いることです。そもそも期日に何の意味もありません。もし私がS&T全体のリードタイムは4年だと宣言して5年で完了したとすると、効果あるいは利益がその分小さくなるという意味かもしれないが、それは時間だけではなく、結果の品質にも依ります。もちろん、我々は可能な限り早く計画を達成したいと思うのが普通です。
仮に下位の目標2の達成は難し過ぎると分かったとしましょう。それは上位の目標が達成できないという意味でしょうか? つまり、S&T全体が達成できないということになるのですか?
少々効果を損なっただけで、戦略自体は無傷で生き残ることも時にはあります。しかも、実際には私たちは他にも選択肢を用意しているのです。しかし、S&Tツリーの書式は、「予備の下位目標2」みたいな代替案を入れるには使い勝手の良いものではありません。それは、上位の目標にとってそれ程目覚ましい結果はもたらさなくても、戦略全体は適正なまま保つかもしれません。つまり、計画的に盛り込んだ代替案は、計画全体が立ち往生しないよう保護するバッファでもあるのです。
以上私の見解をまとめると次のとおりです:
最低限一つのDCEを見つけ出して全体戦略を描くことが、経営トップの最も重要なミッションである。
S&Tツリーは、戦略の効力を著しく高めるとともに、戦略の優れた伝達手段にもなるのです。この経営の重要なミッションをずっと支え続けるには、偏見にとらわれない心はもちろん、S&Tツリーの恩恵と限界をちゃんと知っておくのが大事です。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。
この記事の原文: The benefits of the S&T tree – and some limitations