【ブログVol.10】キャパシティ・コストの非線形性

とその意思決定への影響

重要な意思決定にTとIおよびOEを使う  シリーズ第1部

一般に広く信じられているパラダイムへの挑戦が新たなチャンスを生む

物理学の用語にはあまり大げさな激しい言葉は使われません。しかし、19世紀末のある事件はあまりに厄介だったので「紫外発散」と呼ばれていて、私はそこに心を奪われました。それは黒体から輻射される放射線とその数学的表現の話で、当時の知識によれば、放射線のエネルギーが無限大になるはずだというものでした。もちろん、そうでないのは容易に分かりました。最終的にその難問を解決したのは、放射線の周波数は連続ではなく離散的だという、量子論で初めて理解できるような発見でした。結局のところ、離散関数と連続関数は非常に異なる振る舞いをするということだったのです。

社会科学の分野では、キャパシティあるいはキャパシティのコストのような重要な変数を表わす主な関数が連続であることを前提とする傾向があります。

えっ、本当???

実際にはコスト関数はどれも離散的だと私は断言します。少なくともキャパシティのコストは、ほぼ間違いなくそうです。

どの組織も、事業を営むに必要な十分なキャパシティを供給するのに間接費を使います。また、その一般的な方法は、一度にある一定量のキャパシティを購入することです。例えば、倉庫や事務所のスペース、時間当たり所定量処理できる機械、あるいは週N時間勤務する契約の従業員といった具合です。

上記のキャパシティの給コストは、すべて使うか一部しか使わないかに関わらず固定です。

つまり、与えられたキャパシティを25%使おうが85%使おうが、コストは全く同じなのです! この挙動は本質的に非線形であり、手持ちのキャパシティをどう使うかの判断に著しい影響を及ぼします。

与えられたキャパシティを使い切ると、キャパシティを追加するという新たな選択肢が出てきます。

しかし、ある一定量の単位でしか買えないという原則は変わりません。

従業員は1時間の残業には同意しても、1時間未満の残業には同意しないのが普通です。ですから、34分の残業しか必要でなくても、コストは残業1時間であり、平常勤務の1時間より相対的にかなり割高になります。

そういうわけで、キャパシティのコストの振る舞いを観察すると、次のように振る舞うことが分かります:

初期費用は高い。その後ある一定の負荷に達するまで追加コストはゼロになる。再びコストが急に一定量ジャンプする。その後は使うキャパシティが増えても次の定点までは追加コストはゼロである。

この実際の挙動は、キャパシティを使用する都度平均の単価でコストを配賦する現行の方式とはずいぶん違います。

この点が原価計算に対するTOCの挑戦の核心です!

つまり、原価計算の単純な原理は現実に合っていないのです。このキャパシティの平均コストの使い方は、最終的に単位原価(cost-per-unit)という幻想に行き着きました。

営業の意思決定をサポートするのに、本当に「単位当たり」の指標が必要なのか?

私たちは常にシンプルさの正しさは確信していますが、間違った単純化は受け入れられません。意思決定が最終的な損益に及ぼす影響を直接測る方法より、さらにシンプルにできると本当に思いますか?

では、現実に対するもうひとつの認識について考えてみましょう:

手持ちのキャパシティをすべて使い切ったら、もう救いようがない!

これは間違いなく一般に信じられているパラダイムと真っ向から衝突します。

価値を生み出すには、使えるキャパシティを全部使ってはいけない理由が3つあります:

  1. 信頼性の高い約束の履行を維持するには、保護能力(Protective Capacity)が必要であることは、既にTOCで証明されている。
  2. 市場の需要は、自由に使えるキャパシティを調整する我々の能力を超えた早いスピードで変化する
  3. キャパシティは一定量の単位でしか買い増しできない。これはすでに述べたことと同様。

意思決定にはどんな影響がでるのか?

新しい市場機会が現れたら、リソースそれぞれのキャパシティの使用状態を調べないといけません。もしキャパシティに十分な余力があれば、コストゼロでそのキャパシティを使えます! しかし、負荷の増加で保護能力を食い込むときは、キャパシティ追加によるコストの発生あるいは何件か既存案件を諦めるといった悪影響を慎重にチェックする必要があります。

これは、既存の管理会計のやり方とは非常に異なる全体的なアプローチです!

次回の記事では、我々に平均値を使うよう仕向けて判断を歪ませる「単位当たり・・・」の類の尺度をまったく使わずに、ひとつの市場機会が最終損益にどう影響するか計算できる方法を説明するつもりです。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: The Non-Linear Behavior of the Cost of Capacity

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/