【ブログVol.115】ホリスティックな組織経営の一端を担う人間関係

経営とは、組織として成果を出すことです。つまり、CEOの仕事は、営業、設計・製造、財務、R&Dなど様々な組織機能を一つに纏め上げて、最高の業績を達成することであるのは明確です。それこそ、部分を一個の全体に纏め上げるという、ホリスティック・アプローチです。

組織を一つに纏め上げる上で人間関係の役割は何だろう?

組織の至るところに、全体の目的・目標を達成するに欠かせない人々がいます。どんなリソースでも、一連の能力と、一定期間内の成果量の限界を決める一定のキャパシティを持っています。ですが、人となると、機械や空間、お金といった他のリソースと違って、能力もキャパシティも、明確に定義して測定するのは極めて困難です。それでも、人の能力とキャパシティの制限はどちらも、組織のパフォーマンスに相当大きな影響を与えます。

人というリソースの特性として、その能力を適切に活用するには、とにかくちゃんとした動機づけが必要です。たとえば、営業マンが有望な新規顧客に会うとしましょう。彼女は全力でその顧客を買う気にさせるでしょうか? 売れたら特別ボーナスをもらえる資格が彼女になくてもそうしますか? 仕入先と価格や取引条件を交渉する購買部で、発注した品物の督促もするよう主任に特別な指示をしたとしたら、余分な労力を使ってそうするかというのも、事情は同じです。これらの例のどれも、結局、会社の成長に一役買おうという従業員のやる気次第です。

従業員は、正しく行動できなくて、無意識に害を与えるかもしれません。そして、仕事を正しくできないのは、経験か能力が不足しているせいかもしれません。もう一つの原因は、業績に害を及ぼすことを部下にさせてしまう手続きや評価尺度です。それに対しては、TQM、リーン、6シグマ、TOCは、各々のやり方で対処しています。

非常に稀ですが、従業員が故意に組織の業績に害を及ぼすと、非常に大きなダメージを被ります。ストライキみたいに、命令したことをやらない、あるいは、組織の業績に害を及ぼす具体的な行動に出ることさえあり得ます。暴力を振うみたいに、激しく感情を荒立ててウィン・ウィンを壊すような、大きな傷を与える事態を防ぐのは、間違いなく経営陣の責任です。

ほとんどの場合、従業員はただ上司に言われた事をします。まさに従業員はただ上司の言うことに従うのだから、経営陣がすべての部分を纏め上げて相乗効果を発揮させれば良い結果が出ますが、そうでないと従業員が害を及ぼすのは当然ということになります。

では、従業員は、ただ言われた事をするのを遥かに超える、高い価値を創出できるのか?

幹部マネージャーや高度に専門化したプロ社員のような上級社員は、自分に与えられた仕事を超える、多大な努力を払うことが期待されて当然です。問題は、「それ以外の従業員に何を期待するか?」です。

かなり下位の従業員でも、会社の業績を良くするのにどう貢献すればよいか知っているという可能性は大いにあります。多くの場合、上司は自分の考えに耳を傾けたり高い価値を認めたりしないだろうと思って、従業員はダンマリを決め込んでいます。多くの従業員は、公式な職務を超えてまで会社を助けるのは、知性の浪費だと感じています。それはつまり、次のような無関心の宣言なのです:

「これは仕事でやっているだけで、私の人生で大切なものじゃない。そのために私を雇っていない限り、組織のために自分の知性を浪費し、特別な努力を払うつもりはない。」

そんなわけで、経営陣に言いたいのは、必要な能力が不足しているか、組織のために全力を尽くす気になれないか、どちらででも、従業員が頭痛の種になる可能性があるということです。

Henry Camp氏は、Shippers Supply社.のCEO、他4社のオーナーです。彼は、会社に対する従業員の積極的なコラボレーションを構築するに必要な10ステップを目玉にしたTOCICOウェビナーを開催しました。そこで特に強調したのは、会社の運営を変えるのに喜んで協力する気になってもらうことでした。

このHenry Camp氏のウェビナーは、決してそ知らぬ顔をされず、不満を晴らす従業員の意図的な行為でダメージを被らないためには、経営陣は何をすべきかに焦点を当てています。

読者の皆さん、TOCICOのウェブサイトでそのウェビナーの記録をみてください。それか、YouTubeで30分の動画を見るのがもうちょっと簡単です:https://www.youtube.com/watch?v=4B0Azc6MNn0

私は、その組織は初めてのCEO、または、今まで自分の組織の人間関係にあまり注意を払わなかったが、もう現状を分析しないといけないと悟ったCEOが遭遇する問題を述べておきたい。

マネージメントは、部下のモチベーションの問題を分析して解決するに、どれくらい精魂を傾けないといけないのだろう?

分析する目的は、従業員とマネージメントの間の相互不信が、組織の業績に深刻なダメージを与えるレベルになってないか調べることです。TOC流に言うと、実際の質問は次のとおりです:

内部の人間関係が組織の中核問題なのか?

簡単でも必ずしも最善ではない方法は、組織行動コンサルタントにその診断を依頼することです。焦点のぼけた報告が出てくるのが普通です。何を正すべきかのリストが長すぎる傾向が強いからです。スループットに及ぶ実際のダメージが明確にならないことが多いのです。

組織には、目標の達成速度を決める重要な組織的フローが2つあります。1つは今現在顧客に提供している価値の流れです。2つ目は、その価値の流れを改善するための将来に向けた取り組みの流れです。今現在の価値のフローに影響を及ぼす人の行動に対する懸念は、その流れを閉塞させて組織の評判を落すことです。他方、将来への取り組みに対する主な懸念は、素晴らしい革新的なアイデアを考え出そうと一生懸命努力しないことです。

組織文化の慢性的な問題は、従業員個人の問題とは違います。こういう問題は比較的扱いやすい。問題は、ほとんどの従業員が、少しでも目標以上に達成することに無関心を装うときです。

組織内のパワーグループを抑え込もうとすると悲惨な結果を招きやすい。それ以外のグループは現状のどんな変化も察知して反応するかもしれませんが、航空会社はどこも、パイロットとの関係には特に注意を払わないといけません。病院では、外科医が圧倒的な支配力を持ち、大学は常勤の教授が運営しています。パワーグループ、経営陣、それ以外のグループのバランスは非常に繊細で壊れやすいのです。すべてのグループとウィン・ウィンになることもあり得ますが、長い間それを維持するのは容易ではありません。

合理的な因果関係を使って、今あるまたは新たな問題行動を診断すれば、効果的なウィン・ウィンが見つかるのか?

人は非合理的に振る舞うのだから、合理的なロジックを使う分析は役に立たないというのが一般的主張です。我々人間は、しばしば、興奮して衝動的な行動をしてしまい、実際自分にとって悪い結果を招くような不合理に思える行動になるという主張です。たとえば、犯罪者は結果的に刑務所に入るような行動をします。問題は、罪を犯すという判断がその犯罪者にとって不合理か否かです。犯罪者は、大抵の人に比べたら刑務所に入るのをそう悪いと思っていないので、おそらく否定的な結果になるにも拘わらず、即座に欲望を満たす方を選んでしまいがちなのです。

本当に人の行動は予測できない場合が多いのか?

他人に対する支配欲のように、行動が既知の原因の結果であるなら、論理的な分析によって、現実に合致する起き得る行動を予測できるはずです。大抵、私たちは、十分うまくコミュニケーションが取れている人々の行動は予測できます。これは、部下の反応を予測しようと思うマネージャーにも当てはまります。逆もまた然り。

従業員が後ろ向きの行動をする可能性が高いなら、それは組織の中核対立の一方の面が現われたのでしょう。たとえば、マネージメントが従業員を信頼していないとすれば、彼らは組織を変えるのに従業員は協力しないだろうと思っているでしょう。この対立(あるいはジレンマ)を図にすると次のようになります:

従業員が無関心を装うと、さらに多くの目標を達成し得る組織の潜在力を削ぐような、多くの好ましくない結果が生じると仮定しましょう。それは、そ知らぬ顔をすることが中核問題だということですか? それとも、無関心を装うのは、他の好ましくない現象を引き起こす別の原因が引き起こす、一つの症状に過ぎないのでしょうか?

従業員の冷淡な顔は、ほとんどの場合、マネージメント(経営陣、マネージャー)が従業員を信頼したがらないこと、あるいは、従業員の士気とマネージメントへの信頼を損なう、組織的パフォーマンスの低さが原因で起きます。どちらも、組織にとってもっと悪い影響を及ぼします。何にせよ、あれもこれもコントロールしないといけないことは、マネージメントの注意能力に極めて大きなダメージを与え、その結果として、組織の成長力にも極めて悪い影響が及びます。

この根本の信頼と目的意識は、組織のマネージメントが注意深く維持しないといけません。マネージメントと従業員の相互信頼に変化があるなら、好ましくない新たな現象の出現は、その変化が実際起きているという警告に違いありません。顧客への納入信頼性の低下がそのシグナルになることもあり得ます。ですので、約束の不履行、品質の低下、顧客からの苦情の増加は、注意深く観察しモニターしないといけません。そういう相互信頼の変化が立証されたら、次のステップは、微妙なパワーバランスに何が起きたかの解明です。この段階では、人の行動の動機の解明が最も必要です。その兆候が観測されないときは、マネージメントの注意は、実際に組織の業績を制約している、どこか別のところに向けないといけません。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

70歳にもなってブログを書く理由
自己紹介

この記事の原文: Human relationships as a part of the holistic approach in managing organizations

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/