【ブログVol.65】スループットの経済学: 材料をリソースとして扱うことの議論

この記事は、スループット会計(Throughput Accounting)をよく知っていて、知的訓練ならどんと来いという人に向けたものです。ちなみに、会計とはほとんど関係がなくて、意思決定をサポートする優れた方法論を説明するには、スループット会計というよりスループットの経済学(Throughput Economics)というタイトルにする方がしっくりすると私は考えています。

組織は、普通の環境では、最終的に売るつもりで材料や品物を仕入れた後、内部リソースのキャパシティを使って商品に仕立てて、それを販売します。

スループット経済学のルールを使って意思決定する重要な違いは、材料のコストはほぼ直線的だという前提です。 20%追加で材料が必要なら、材料コストは元のコストの約20%増えます。輸送その他の要因でいくらかコストが増えるかもしれませんが、「大体正しい」扱いでは材料コストは線形だとしても十分よいのです。

販売プロモーションや輸出、特別サービスによる売上げ増加の影響を単純かつ効果的に計算するには、この線形性が非常に重要です。

たとえば、製品-Xが1000個$10で販売されていて、Xの1個当たりの材料コストが$6だとします。そうすると、総スループット(T)は$4000になります。その状況で、大規模な顧客からXを1個$8で3000個買いたいという新しい注文が入ったとして、それによる通常の販売への影響が無いとすれば、スループットの増加ΔTは3000 *($8 – $6)= $6000になります。もちろん、この単純な計算では判断の正当性を保証するには不十分です。最低でも、今使用可能なキャパシティで合計4000個生産するに十分かどうかの確認が必要です。

キャパシティのコストは、材料コストとは非常に異なる振る舞いをします。最も負荷の高いリソースには、Xを最大3,000個までなら十分処理できるキャパシティがあるとしましょう。その場合、Xの必要量が1000から3000に増えても、キャパシティの追加コストはまったく発生しません

しかし、それを超えた1,000個を処理するには、キャパシティを追加するコストを考考えなければなりません。

そのコストは分かっていますか? 無条件にその1,000個を生産可能だと仮定できません。時には、そういう需要の増加に対応するに必要なキャパシティを入手する有効な方法が無いこともあります。その場合は、どれか他の生産を諦めて、キャパシティに空きを作るしかありません。たとえば、単価は安いが全体として通常の取引よりも大きなTを生むので、その顧客に3000個売る方を選ぶとか。その他には、残業や外部委託も可能ですが、正規に使えるキャパシティを超えたキャパシティを確保するには業務費用の増加ΔOEを計算に入れなければなりません。ですから、材料コストは線形でも、キャパシティのコストは非線型なのです

では、組織が材料の一部を所有している場合はどうなんだろう?

肉、ワイン、ジュース、その他食品加工など、農業をベースとし、主な原材料を栽培や飼育する農場を所有している組織では、これはごく普通のケースです。通常、これらの生産者は、それらの材料を他のサプライヤーからも多量に購入することもできます。

農場は製造に必要な材料の量を事前に計画します。しかし、農業はリードタイムを短縮できません。ですから、最初に決めた品目個別の生産量はどれも与えられたリードタイム内には変更できないのです。しかも、ほとんどの場合、そういう決定の頻度はごく限られていて、年に一度です。

そのような場合のモデリングは2つあります:

  1. 2種類の製品を定義する。自分が所有する材料を使用する主力製品。これらの製品は、材料コストがTVC(Truly/Totally Variable Cost)に含まれず、単位当たりのT(スループット)は高い。その代わり、主力製品は使える材料の量に制限される。その制限を需要が大きく超えたら、顧客にとって全く同等の代替品を使って市場に提供できるが、TVCが高い分単位当たりのTは低い。
  2. 自分が所有する材料はリソースとして扱う!

それはつまり、それらの材料はリソースと同様の振る舞いをするということです。いつでも使えるキャパシティを一定量維持するにはコストがかかります。 使えるキャパの20%、60%または99%のリソースを使うコストはどれも同じです。しかし、それを超えるキャパシティが必要になったら、コストは一気に跳ね上がります。

ですから、より正しい意思決定をサポートするには、リソースのコストのこの本質的な非線形性のせいで、そういう振る舞いを考慮できるアルゴリズムを持ったスループット経済学を導入せざるを得ないのです。しかし、この能力は本質的に非常に単純です。それは、リソースに過剰な負荷がかかり始めたときだけ関わります。特定の材料をリソースとしてモデリングしても、何も新しい困難は生じません

組織が既に所有する材料の量については、すべて使うか否かに関わらず、掛かる費用は固定です。そこで、使ってよい量の適正値とそれを超えて材料を追加する際のコストの数値と一緒にして、そういう材料をリソースとしてモデリングするのは、リソースのキャパシティと一時的な増強を考慮するスループット経済学のアルゴリズムに一致したものです。

他の方法論とスループット経済学の違いのひとつは、外部のサプライーから購入して保有材料を増やす場合は、スループットの増加ΔTの計算ではなく、業務費用の増加ΔOEの計算に含めることです。意思決定のサポートに本当に重要な情報は ΔT - ΔOE であり、その結果はそれによって何も影響を受けません。

私の全般的な理解:

我々は線形な振る舞いが好きだ。なぜなら、意思決定を支援するには、その方がずっと簡単で、殆どの場合それで十分だからです。我々は皆、現実は本当に線形な振る舞いをしないと知っています。だから、その複雑さを考えて、より厳密な解を見つけようとする共通の誘惑があるのです。しかし、その罠にはまると、混乱し業績は目標に遠く及ばないものになります。

ここで私たちが理解できたことは、我々が本当に非線形な挙動に直面したとしても、ある特定の値でコストが突然上昇するのを考慮するだけでよく、比較的単純な挙動だということです。

結局、意思決定の結果起き得る影響と変化は、一定の範囲内でほぼ妥当な予測ができます。複雑なやり方を前提に考えるよりも、はるかに得られるものが大きいのです。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: Throughput Economics: Discussing the case when materials should be treated as resources

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