【ブログVol.67】TOCが適用できない組織は本当にあるのか?

TOCは製造現場から生まれました。そして物流とプロジェクトへと拡大してきました。基本的な概念のいくつかは環境に合うよう「翻訳」が必要でしたが、非常に異なる環境である医療分野でも目覚ましい成功を収めています。

思考プロセス(TP:Thinking Processes)は、どんな環境にも使えるよう意図して開発されました。しかし、TPの主なツールが定義されて以来25年経った今、TOCが効果的だと既に分かっている環境とは大きく異なる環境で使うに、そのままのTPで果たして十分なのか、我々は再び自問しなければなりません。

いきなりTPを使った分析から始める弱点は、我々が既に知っている環境との区別を示すものとは無関係かもしれない、膨大な数の好ましくない結果(UDE:Undesirable Effects)に圧倒されることです。ですから、よく知らない環境を調べるときは近道できる実用的な方法が欲しいのです。もちろん、私たちにはそういう環境から始める機会も必要です。私なら、TOCが引き出せると思われる価値さえ分かれば、直ぐにでも始めたい。

もしあなたが、すべての組織は本質的にシンプルであるというTOCの公理を認めるなら、組織を効果的に運営する方法に本当に影響を及ぼすほど重大な環境の違いは、本の僅かしかないはずです。その前提の下で、我々は、それら少数の違いが何であるかを推測し、因果関係の分析を使ってその環境の中核の問題を導きだすことができます。そして、願わくは、覆せる可能性が高い重大な間違いのある仮定を突き止めたい。

現在TOCがあっても微々たる影響力しかもたない環境を挙げると次のとおりです:

  1. 金融機関:銀行、保険、クレジットカード会社。
  2. 輸送・交通機関:航空、海運、陸運。
  3. 芸能組織:劇場、音楽(オペラ)やダンスの類。TV局も可。私は美術館もこの類に入れたい。
  4. 緊急事態対応組織:陸軍と刑執行部隊

では銀行についてちょっと考えてみましょう。

銀行と他の組織の厳密な違いは何か?

私は、銀行内の特定のミッションの流れを改善することにフォーカスしたTOCのインプリメンテーションをいくつか知っています。それは確かに価値があるだろうが、問題の核心に触れたものかどうか、私は疑わしいと思っています。

営利団体はすべて、現在と将来に渡ってより多くお金を儲け続けるために努力しています。銀行は、より多くお金を儲けるのにそのお金をキーリソースとして使います。このことで銀行は「お金」とは何なのか徹底して問わざるを得なくなり、お金の「仮想的な側面」を暴き出しました。それは、彼らが実際持っているよりも多くお金を貸し出すための選択肢になっています。この理解は、他の殆どの企業には無い、金融業界に特有な考え方に繋がる重要な内部の認識です。

銀行は非常に異なる2種類のサービスを提供しています:  

  • 融資という古典的なサービス
    • 将来もっとお金を稼ぐためのお金を今貸すこと。
    • 顧客の視点から見た価値: 必要なお金が無い時間と十分すぎるほどお金がある時間の橋渡し。
    • 定期預金などデポジットを提供するクロスオーバーサービス。銀行は、融資に使うリソースとしてより多くお金が必要。顧客は、自分に十分なお金があるときはそれを銀行に融資し、必要なとき少し利子付きで返してもらう。
  • 顧客のお金を保護し管理するという融資や金利とは無関係なサービス
    • 預金、取引記録、送金、(利用可能なら)株式売買、外国貨幣での取引、その他。
    • コンピュータやスマートフォンを介して自分の銀行口座を管理するユーザーアプリケーション。  

お金のやり取りに対する需要の高まりに注目すると、その単純さが現れています。従来の貸出と預金のサービスが求められるのに変わりはなく、むしろニーズや提供するものに本質的な変化はありません。しかし、通信技術の進歩で、他の種類の銀行サービスにも大きなチャンスが切り開かれました。その技術は、より高度なオプションや情報に対する顧客の期待感をいっそう高めています

銀行システム間の競争は、新しいサービスや新しいルックスに最先端の技術を使う方向に動いています。それはまた、銀行システム内の支店や代理店の数を減少させる一方で、最先端のITと顧客の要望を理解し、IT開発者に要件を明確に示せる管理者や専門家の必要性を増大させる傾向を生み出しています。それは、高いセキュリティを維持すると同時にITの支援が必要な新しいサービスの需要を益々増大させ、IT開発者に対してさらに多くの要求を突きつけます。

この環境全体の変化でITプロジェクトの中に自然とボトルネックができます。以前は、銀行システムがデッドロックになっていて、互いにすぐ模倣することができていました。今は、その環境変化で、最先端技術の最適かつ広範な使用の競争が激化しています。また、銀行システムをバイパスするサービスを提供するPayPalのような企業から、新たな脅威が現れています。ビットコインの出現も、銀行システムに対するまた別の脅威です。

なら、 TOCは銀行にどんな価値をもたらせるのか?

ITが関わるプロジェクトにCCPMを適用するだけでは不完全な解決法です。 CCPMには、競合するプロジェクトの間で適切な優先順位を付ける明確なメカニズムがありません。しかし、TOC流派の人々なら、私が思いつく他のどんな方法論よりも、うまくそれに対処できます。

効果的なプロジェクト・ポートフォリオはどんなものか? 大規模プロジェクトと小規模プロジェクトのバランスは? 完了したプロジェクト全体として実質的な成長を支える相乗効果を生み出すに必要な期間をどう見積もるか? TOCにそのための既製の方法があるわけではありませんが、優秀なTOCの専門家の人々なら、きっと良い解決法を開発できるはずです

以上の分析は、私の私見と仮定に基づくもので、知っているとは決して言ってはいけないことを私は自覚しています。もし特定の銀行を実際に詳しく調べる機会があれば、この仮定を検証して、少し焦点をずらさないといけないかもしれません。ここで述べたことは、素早く中核の問題を特定し、その解決の方向性を大まかに示す能力があるという、TOCの可能性を示す一例に過ぎません。しかし、上記で述べた他の環境でも、同様のアプローチで非常に素早く真の価値を示せるはずです。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: Are there organizations where TOC is not applicable?

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/