【ブログVol.74】TOCとSWOTの対話

TOCの人々にとって、TOCコミュニティ以外で生まれた考え方を評価するのは、絡み合う3つの理由で容易ではありません。

ひとつは、TOCの知識体系にないものは何でも疑うのが当然とする困った傾向です​​。私たちは既にこの問題は乗り越えたと、私は思いたい。

もう一つの理由は、TOCで使う特別な用語は、使い方が他と違う可能性があることです。「制約」という言葉ひとつ取っても、TOCでの使い方が他とどれだけ違うかです。

3つ目の理由は、TOC流の思考法というと、ある特定の順序での分析を含意することです。それは、常にゴールあるいは重要な目的・目標から始めて、次の質問を投げかけます:

何があなたがより多く達成しようとする妨げになりますか?

TOCのスコープ(守備範囲)を拡大しパワーを大きくするには、経営上重要な知見の出所になった他のソースとの間に、十分な架け橋と対話を確立することが絶対に必要です。

では、TOCとSWOT分析の関係を確認しましょう。強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)と脅威(Threats)の頭字語SWOTは、基本的には、組織、ブランドまたは単なる製品の市場イメージです。SWOTの目的は、潜在的な機会に注目して最善の機会を捉え、弱点のダメージを軽減し、脅威に気を付けながら、強みの効力を高めることに意識を集中させることです。要するに、SWOTのすべてのパーツがマーケティングに影響を与えるので、それを考慮に入れて適切な計画を立てるべきだということです。

対象市場を決める鍵を握るという前提で、SWOTはまず強みから始めて、マーケティング・キャンペーンではそれを特に強調します。 それに対して、TOCは組織全体としての弱みから分析を始めます。それらの弱みは組織の現状がそうである主な原因です。TOCでは、制約、中核問題、誤ったポリシー(方針制約)という複数のタイプの弱点を用いますが、それらはすべて覆せるはずの誤った仮定の特定に繋がります。

この部分にあるTOCの基本的仮定は、キャパシティ、能力(技術・技能)、それとおそらく市場の認知における中核の弱みが、非常に短時間でより多く達成し最も即時的にチャンスを生む重要なレバレッジポインだということです。

TOCでは、組織の将来を大幅に改善するまでの道筋を描く上で強みが果たす役割を理解するのに、ずいぶん長い時間がかかりました。私は、決定的な競争力(DCEDecisive-Competitive-Edgeという概念を明らかにした洞察は、TOCの重要な進歩だと思っています。ゴールドラット博士は、DCEを「どの競合にも真似できない方法で、潜在的な顧客の重要なニーズを満たすこと」と定義しました。因みに、潜在的な市場のニーズは、今現在は「あるべくしてある事」または「変えられない現実」として諦められている苦痛です。それを突き止めるTOCの方法は、現状ツリー(CRT:Current Reality Tree)の中で製品あるいはサービスとそのデリバリを起点とする因果関係の枝(ブランチ)を明らかにすることで、市場で起きている可能性が高いUDE(好ましくない結果)を見つけ出すことです。しかし、ひとつのUDEを解決できるには、そのニーズに対する解決法を開発するに必須なある特定の能力が必要になります。

ですから、高速で信頼性の高い製品のフローのような、その組織独自の能力は組織に必須な強みです。そういう能力は新たなチャンスの源泉であり、市場にある未解決のニーズとそれに応える能力を結び付ける力があるということです。その独自の能力を起点とする論理的な因果関係の枝(ブランチ)から、それら組織の持つ能力で解決できる好ましくない結果を導くことができるのです。

たとえば、今の標準納期ではとても遅すぎて緊急な要求に応えられない場合、高速で信頼性の高いフローがあれば、どうしてもその製品が欲しい見込み客の緊急事態を救えるでしょう。そうなると分析の次の段階は、高速で信頼性の高い納入サービスを受ける見込み顧客にとっての価値を見積もり、そういう緊急事態に応えられるなら、幾分高くても満足できると分かっている顧客に、新しいビジネスとしてそのソリューションを提供するかどうか判断することです。そういう分析をすると、緊急性の有無に依らず、割増料金を取らずに、すべての顧客に早期納入サービスを売って、価値のある独自の能力を「無駄遣い」すべきではないということになるはずです。

通常のSWOT分析では、市場の視点から製品やサービスの強さを考えます。それらの強みは、どれも会社の特定の能力によるものです。市場にある苦痛やニーズに対する感受性と合わせて、独自の能力をよく知っておくことが、新しいチャンスを見つけるのに不可欠です。つまり、完全な効果を発揮するには、強みとチャンスが一緒に束になっていなければならないのです。

SWOTの最後のパーツは脅威です。マーケティングの観点からすると、より有利な競争方法を見つけたかもしれない競合は脅威でしょう。もう一つの脅威は、将来の営業に悪い影響を与えるかもしれない経済的、文化的な出来事です。これらはほとんど外部の出来事で、会社が事前に備えておけないものです。

外部の脅威はもちろん、今は見えない表面化しつつある内部の脅威にも目を配る必要は絶対にあります。たとえば、現在の強みを陰で支える独自の能力を持つ必要不可欠なプロの退職。もう一つの脅威は、高く長期の投資で現在の金融資産を余り多く取り崩すと、キャッシュが制約になり得ます。

これまでTOCは、概して、外部と内部両方の脅威の問題に無頓着でした。 UDEの概念は、TOCがユーザーにより完全な因果関係のイメージに気付かせて導く、最も間近なシグナルです。その意味で、UDEはよく分かっている好ましくない結果と定義されています。現在のTOCの知識体系で欠けているところは、時には悲劇さえ招くほど潜在的に最も好ましくない結果になり得る、新たに表面化しつつある現象を常時監視することです。それについては「脅威が出現する前兆を察知する」という記事ですでに述べました。

一般的に、SWOTでは、強みを享受できて弱みを気にしなくて済む市場セグメントを詳細に定義するよう奨励しています。私が思うに、TOCは、自分が持つ機能と能力、デリバリ・サービス、豊富な品揃え、それらすべてを使って、価値を最大限に引き出せる顧客を定義してターゲットを絞り込むという、賢い市場セグメンテーション法を開発するテクニックを完全には開発できていませんでした。しかし、そういうTOC的なツール​​を開発するのはそう難しくありません。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: A Dialogue between TOC and SWOT

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/