【ブログVol.75】制約のスループット速度は、本当に役立つのか?

単位原価(Cost-per-unit)は、TOCがこれまで挑戦してきた最も破壊的な過ちのあるパラダイムです。私の経験からしても、明らかにマネージャーや公認会計士の多くは、その潜在的な歪みに気づいています。しかし、その歪みの影響を完全に理解するには、多くの状況をじっくり分析する必要があります。

単位原価は、意思決定の簡単​​なプロセスの支えであり、そのプロセスは絶対従わないといけない「聖書」だとマネージャーたちは思っています。ですから、単位原価に基づいて意思決定するマネージャーを非難するのは困難です。ほとんどの実績評価で根拠にしている「効率」のように、単位原価を盲目的に受け入れることで、沢山の悪い影響が生じています。そういう「効率指向」の実績評価が、どうして忠実な従業員に組織に損害を与えるような行動をさせるのか、TOCは理論的に証明しています。

なら、スループット会計は、間違った単位原価に代わる正しい 「基準」を提供するのか?

質問のヒント:そのとおりです。しかし、まだいくつか不可欠な発展が必要です。

上記の図に示したPQ問題は、もともと、「 この例の会社は、いくらお金を儲けられるか?」という質問に対して、単位原価が誤った答えを出すのを証明するために、ゴールドラット博士が使った有名な例です。

図で色付きの楕円はどれも、1日8時間・週5日稼働するリソースを示します(訳注:週2,400分稼働)。また、フローチャートは2つの製品Pと製品Qのルーティングです。そして、楕円の中の数字は、各リソースでの部品1個当たりの所要時間(分)です。また、固定費は週$6,000です。

第1の間違いは、キャパシティが足りなくなる可能性を無視することです。実際、青リソースはボトルネックで、1週間当たり製品P100個と製品Q50個の需要全部を生産するのを妨げています。ですから、明らかに次の意思決定をしなければなりません:

今ある需要のどれを諦めるか?

標準の原価計算原則なら、製品Pの販売を一部諦めることになります。なぜなら、製品Qよりも製品Pの方が、単価が安いのに材料費は高く、処理時間も長いからです。

これは、製品Pよりも製品Qの販売の方をいくらか諦めたらどうなるかちょっと確認すれば、その方が儲かる判断だと直ぐ気づくような、よくある第2の間違いです!

製品Pを優先する方が儲かる理由は、青リソースはキャパシティが足りない唯一のリソースであり、製品Qは、余裕があるそれ以外のリソースよりも、青リソースの時間をずっと長く使うからです。

大きな驚きに思える背後の理由を示す簡単かつ効果的な方法は、すべての製品についてスループット(売価 - 材料費)を能力制約の所要時間で割り算した制約のスループット速度(T/CU: Throughput-per-constraint-unit)を計算することです。この例では、青リソースのキャパシティ1分当たりのスループット(T/CU)は、製品Pでは($90-$45)/15分=$3/分で、製品Qでは($100-$40)/30分=$2/分です(訳注:製品Pのスループット速度の方が大きい)。

これは、単位原価が判断を歪ませることを見事に証明しています。しかし、常にT/CUが正しいという証明ではありません。標準の原価計算では、青リソースがボトルネックだと分かれば、通常の結果は週$300の損です(訳注:スループットは、P60個+Q50個=$5,700; 利益は、スループット-固定費=$5,700-$6,000=▲$300)。 それに対して、T/ CUルールに従えば、結果は週$300の儲けになります(訳注:スループットは、P100個+Q30個=$6,300; 利益は、スループット-固定費=$6,300-$6,000=$300)。

因みに、私はT/ CUは間違っているという考えです!

といっても、業務費用(OEoperating-expenses)と投資(Iinvestment)とともに、スループット(Tthroughput)の考え方は、ビジネスにおける意思決定にとって大きなブレークスルーになったという、私の主張は変わりません!

T/ CUに関する前述の内容は、すでにTOCICOとその後の論文でAlan Barnard博士が発表しています。Barnard博士は、複数の制約があるとT / CUは間違った答え出すことを示しました。私は、それに関して、新しい能力制約が現れる前に行う意思決定への影響全体を説明したいと思います。

T/ CUのロジックは、次の2つの重要な仮定に基づいています:

  1. アクティブな能力制約はひとつ、ただ一つしか存在しない
    1. 注意事項:アクティブな能力制約とは、ほんの少しキャパシティを増やせば最終損益が伸びるし、ほんの少しでもキャパシティを無駄にすれば、間違いなく最終損益が下がるようなリソースのこと。
  2. 目下の意思決定は、比較的影響が小さく、新しい制約を生み出すほどのものではない

現実の観察:

ほとんどの組織は、制約は内部のキャパシティではありません! しかし、下記の2つの異なる状況に注意する必要があります:

  • 市場の需要が最も弱いリンクの負荷よりも明らかに低い。
  • 使えるキャパシティ目一杯まで負荷がかかったリソースが1つ以上あるが、残業、追加シフト、派遣労働者やアウトソーシングなど、一定の対価(ΔOE)を払えば、十分なキャパシティを素早く追加できる手段が組織にある。そういう状況ではキャパシティの不足がTと純利益の増加を制限しないので、キャパシティが制約ではない。 

前述の重要な仮定の2番目、目下の意思決定の影響は小さいという仮定は、マーケティングと販売の新しい試みの大半は、T / CUを使うべきではないということです! マーケティングと営業の取り組みの多くは、容易に1つ以上のリソースの保護能力を食い込む過剰な負荷を与え、高い納入信頼性を大きく損なう相互作用的な制約を生み出す可能性が高いからです。販売プロモーションを使う企業ならどこも、キャパシティを失う影響と、そのときプロモーションに含まれない製品のデリバリがどうなるか良く知っているはずです。

つまり、過剰な負荷がかかったリソースのキャパシティを素早く増やすよい手段がある可能性が高くても、オペレーションと財務のマネージャーは両方とも、そういう事態にしっかり備えておくべきだということです

では、ちょっと違うPQ問題を見てみましょう:

経営者が、キャパシティを増やさずに新製品Wを投入しようとしているとしましょう。新製品Wは、青リソースのキャパシティを使うが使用時間はごく短いとします。

ここで質問: どんな影響が出るか?

製品Wの投入前なら、会社のボトルネックは青リソース(負荷125%)ですが、今度は3つのリソースに100%を超える負荷がかかります。水色リソース(154%)が最も負荷の高いリソースになり、次は青リソース(146%)、その次は灰色リソースで135%の負荷になるのです。

そうなると、T / CUはどのリソースに従って我々を導いてくれるのか?

T / CUのガイダンスどおりにやれば「最適解」が見つかるとは限りません。青マシンから見れば、この新製品はこの上ないように思えます。青マシンのスループット速度に関して、製品Wは($77-$30)/5分=$9.4/分で、全製品の中で最高値です。徹底してこのT/CUに従わないといけないなら、製品Wの全需要と製品Pの需要の一部(青マシンには製品P46個分のキャパが残っている)を受注して、製品Qは1個も売らないのが正解です。そうすると、$​​770の純利になり、製品W無しの場合の$300の純利より大きくなります。

それは我々が得られる最高の利益なの?

ところが、水色リソースを考慮してT / CUを計算すると、製品Wの水色リソースでの分当たりスループットは$2.76/分で最下位です

上記のような超簡単な例なら線形計画法が使えます。完成品の販売だけが本当の売上だとして、製品Pを97個、製品Qを23個、製品Wを42個販売すれば、利益は$1,719に達します。これは製品Wが無い場合よりかなり高いのですが、青リソースのT/CUを頼りにするよりもずっと高いのです!

既に述べたように、上記の結論はBarnard博士がもう論じています。制約を生じさせる可能性が高い意思決定では、意思決定の段階で我々がちゃんと分析できていることが重要なのです。

今まで、私たちはキャパシティの制限を無条件に受け入れてきました。現実には、私たちはもう少し融通が効くのが普通です。たとえばオペレータに残業代を払うなど、キャパシティを簡単かつ素早く増やす手段があれば、新製品の投入や新しい市場セグメントへの参入の価値を評価できるような、全く新しい道が開けるのです。キャパシティの追加が高価でも、多くの場合、最終損益への影響は非常に肯定的です。

キャパシティの非線形な挙動(これは以前の記事で述べた)は、品揃えの変更と新しいバッファ(「キャパシティバッファ」として定義される)を使うことで、利益を伸ばせる非常に大きなチャンスを生むものだと捉えるべきです。長期的な視野に立てば、すべての市場セグメントの市場価値を理解して、キャパシティバッファを使って需要の変動に対処できるような、より優れた戦略の立案に繋がる可能性があります。ここは、原価計算の間違った部分を直感と厳密な解析の実用的な組合せで完全に置き換えたスループット会計の拡張としてのスループット経済学の本質です

素早く臨時のキャパシティを確保できる手段であるキャパシティバッファが使える場合は、T/CUは役に立ちません。比較的大きな意思決定を検討するときは、T/CUの使用は、単位原価を使う場合と同様、間違った意思決定に繋がります。

ゴールドラット博士はかつて私に言いました: 「スループット会計には困った。皆私にひとつの数字を期待するが、私はその数字を教えることができない」と。彼が言いたかったのは、T/CUという数字は、不適切で曲解されることが多過ぎるということです。数字は分からないが答えはあると私は思っています。このブログの特別なページに掲載した「TOC Economics: Top Management Decision Support」と題する私の論文を読んでみてください。ウインドウの左メニューにそのページへのリンクが表示されています。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: Is Throughput-per-constraint-unit truly useful?

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/