【ブログVol.87】真の洞察とレシピの違い

私たちは皆、考えるだけで時間をほとんど潰してしまうほど我々を悩ます一番大きな問題を解決したい。一般的に言えば、そういう問題を驚くほどきれいに解消してくれるソリューションが2つあります:

  1. 特定の問題をうまく処理する詳細な処方。私はそれを「レシピ」と呼ぶ。なぜなら、それがどう我々を救うのか本当は分からないで、ただ従う治療法に似ているからだ。「ベストプラクティス」とも呼ばれるそれらレシピは、多くの場合、明確な因果関係を根拠にしたものではなく、大抵はそれでうまくいったという過去の経験に基づいている。
  2. 新しい可能性を秘めたソリューションの核になる洞察(知見)。つまり、論理的な思考法を用いた完全なソリューションの綿密な開発につながる新しい理解。

真の洞察は因果関係ロジックに基づいていなければいけません。そうでないと新しい理解は得られないからです。Googleで探した「洞察」の定義をいくつか挙げておきます:

  • ものごとの本質の理解 – merriam-webster.com
  • 問題解決のヒントになるまたは役に立つ関係の理解 – dictionary.com
  • 複雑な問題や状況を、明確かつ深く、時として突然理解できる能力 – Cambridge 

上記の定義すべてに「理解」という言葉があります。何かを「理解する」ということは、その根本の因果関係の理解を含まないといけないようです。ですので、次のように定義したらどうでしょう:

洞察:明確で様々多くの状況に適用できる一般的な因果関係のブランチ
(訳注 ブランチ: より大きなツリーに組み込める因果関係の枝)

結果を明確に説明する欠けていた原因が埋まると、突然現実の理解が得られて、不確かな状況が開けたような興奮を感じます。私は、ゴールドラット博士と長く緊密に付き合う中で、新しい洞察を得た「あっそうか!」と思う瞬間を何度も経験しました。それらの洞察は、私の人生に大きな影響を与え、本当に偉大な人との非常に大切な思い出になっています。

洞察それ自身の価値は一般的で、実際の影響は非常に広範に及びます。ですから、私たちが学ぶ新しい洞察のどれも必ず新たなチャンスを生みます。私たちの限られた時間を自分の夢を最も効果的に実現するために使うという挑戦に駆り立てるような、新しいチャンスを完全に理解するのは、私たちの使命だと私は思います。真の洞察ならではのこの性質は、特定の領域でしか役に立たないレシピとは対照的です。

現実の問題はどれも、実は2つの異なる行動の間でのジレンマまたは対立です。それぞれの行動はそれぞれのニーズを満たすのが目的で、両方を取ることはできません。しかし、そういう理解では、より重要なニーズを取って他は犠牲にするか、間を取って妥協するしかないと言っているだけで、さほど役に立ちません。TOCの本当に重要な洞察は、3つの因果関係のどれか1つの裏にある1つの前提条件を崩せば、両方のニーズを満たすことで問題を解決するには十分だということです。 その因果関係の1つは、2つの行動を2つとも実行することはできないという主張で、残りの2つは、特定の行動を実行しないとその狙いとする特定のニーズが満せないという主張です。(訳注:3つの関係とは、クラウドのD対D’、およびB←DとC←D’の3つ)

この重要な洞察はTOCの対立解消法のコアですが、それ自体、「コストが上がれば価格も上げて当然」みたいな、主流の考え方への絶間ない挑戦にもその影響を拡大しています。

ある洞察が引き金になって長期に渡る厄介な問題を解決する効果的なソリューションが開発されたとすると、そのレシピによって元になった洞察が廃れる危険性があります。驚くことに、ある分野で実用に移された価値の高い洞察が、別の分野では知られていないことが非常に多のです。たとえば、「今の顧客を維持するのは我々には大きな利益だが、顧客には我々に拘わる理由は無い。だから、我々は、大事に扱われ特別な存在だと感じて我々の顧客であり続けたくなるような強い動機を顧客に与えなければならない」という洞察。この洞察は、ある航空会社が開発した「フリークエント・フライヤー・プログラム(マイレージ・サービス)」というレシピに翻訳されました。元の洞察は包括的ですが、レシピの方は個別的です。非常に異なる分野でその価値をどう引き出せばよいかを知るには、その元になった洞察に戻らないといけません。

類似した組織が採用するレシピのベンチマーク(基準)は人気の高いレシピです。それは、限定的な価値しか生まないやり方のまね事に走る大衆的な動きに繋がり、その元になった著しく高い価値を生むはずの真の洞察を突き止めようという意欲を削いでしまいかねません。

TOCはこれまで、いくつか基本的な条件が成り立つ境界の中でうまく機能する、優れたレシピをいくつか開発してきました。その元になった洞察を決して忘れてはいけません。その価値が及ぶ範囲は、それらのレシピよりはるかに広いのです。

今度のベルリンでのTOCICOカンファレンス(2017年7月)で、私はTOCの重要な洞察について話すつもりです。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: Between a true insight and an effective recipe

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/