今回は、2011年のTOCICOカンファレンスでのプレゼンを振り返ってみたいと思います。大きな変革では、予期しない悪い影響や解明が必要な兆候が現れ易くなります。TOCを導入するには、マネージャーもその部下も、考え方を大きく変えないといけないのは確実です。私にすれば、この問題は、ゴールドラット博士が亡くなって6年経った今議論すべき、最も重要なテーマに見えます。なぜなら、その変革を成功させる責任は我々にあり、我々が今まで非常に慎重に構築してきた素晴らしいチェンジ・マネジメントプロセスでも判断できないほど大きな挑戦だからです。
大きな変革では一時的な混乱は避けられません。つまり、事前に変革の結果をすべてきちんと分析しておく方法はあり得ないのです。ロジックと直感を駆使して事前に悪い副作用(NBr:Negative Branch)を探り出しておけばよいのは間違いありませんが、私たちはそう賢くはないので、現実を受け入れて出る結果に立ち向かう覚悟をしておくべきでしょう。混乱とは、何をすべきか、そして先々どうなるべきかについて、組織内に違う解釈をする人々が居るということです。また、混乱とは、私たちに見えたとおりに理解してよいものかどうか確信が持てないということでもあります。混乱し不安になった結果、大小様々な損失を引き起こす間違いを犯します。その間違いを素早く正せば、普通は大幅に被害が軽減されるので、間違いを犯すこと自体は大きな問題ではありません。
移行期とは、変革を開始してから新しいルールの下で、特に満足に直感が働く状態が回復して、システムが安定したと確信できるまでの期間です。
この移行期の1つの特徴は次のとおりです:
変革する領域のルールは、移行期間中は、古いものでも新しいものでもない。
ここで言う「ルール」は、実際の行動の管理に関するものです。変革の実行は、その対象領域の現在の管理方法に直接影響を与えます。しかし、変革の途中では、別々の人々が違うまたは反対の行動をしている混在状態になるかもしれません。また、ルールやプロセスの一部を一時的に変更して、後で微調整することもあり得ます。ですので、変革の実施計画では、中間のステップの概要とその適用期間を説明しなければなりません。もちろん、移行中は、当初計画からの変更や逸脱が幾度かあり得るでしょう。
TOCのプランニングでは、計画の不確実性と計画のロジックの間違いから守らないといけない重要な個所にバッファを入れます。必要なバッファは、通常のタイムバッファだけでなく、被害が拡大する前に新たな問題を解決するに必要なキャパシティの余力、能力の余力、そして、必要なら容易に使える経営者や幹部マネージャーの注力(マネージメント・アテンション)があります。
こうした変革のプランニングで重要なのは、TOCでは普通に使う次の質問を投げかけることです:
うまくいかないとしたら、それはどこですか?
これは、計画自身とその背後のロジックの詳細に疑問を投げかけるものなので、答えるのが非常に難しい質問です。ゴールドラット博士が言いたかったのは、「決して分かった気になるな(Never Say I Know)」ということです。実際、皆その質問をしたくなるのはそういう意味です。システム全体が脆弱な移行期には特に重要です。
うまくいかない可能性があるものを3種類挙げておきます:
- 変革とその計画の背後にあるロジックの間違い
- 実行時の間違い。少し詳しく言うと:
- 変革を引っ張るチャンピオン(推進者)のロジックや指示に対する誤解。
- 実行計画を故意に妨害するような変革に対する抵抗、。
- “マーフィー” - 計画に組込んだバッファを使い尽くして、損害を与える不確実性。
- インプリメントに重大な悪影響を及ぼす外部の出来事。
いくつかの例:
- MTAの運用ルールに移行する前に、新たな目標在庫に等しい在庫バッファを用意しておかないといけないのを知らず、いきなりMTO(Make-to-Order)からMTA(Make-to-Availability)に移行してしまった! 慎重に監視すべき移行期間の長さは、在庫バッファの構築に必要な期間で決まる。
- MRP(資材所要量計画)を使うプランナーが、「投入の抑制」という言葉の意味を、制約が手空きになるほど厳しくするものと理解した。バッファを短くしすぎたら簡単にそうなる。そういう間違った行為は、おそらく、誤解あるいは計算ミス、さもなければ、意図的な妨害の結果ではないだろうか。
- CCPMの概念実証(POC:proof-of-concept)を兼ねたあるプロジェクトは、多くの新しい要求が出てきて困難な状況に陥り、耐え難い苦痛と遅れを生じた。後から出てきた要求のいくつかは、計画の不備で必要になったものだった。その他は、競合が新しい機能を導入しようとしているという新しい情報が原因で出てきた新しい要求だった。
- 目論んだ変革は、業務費用(OE)が増加するので特別予算が必要だったが、銀行から古い借金の即時返済を要求され、用意した資金バッファが奪われた。これは外の出来事が原因の例。
移行期間中はどう管理しすればよいのか?
その質問への答えとして何が良いか考えると、何かうまくいかない事が起きれば、特定の潜在的脅威が実際現実化しつつあることを臭わす何か特別なシグナルが出るはずです。たとえば、顧客が約束どおりものを受け取れるか心配な営業マンは早目の納期を指定して、製造部門が「自分の注文」を優先しないといけなくなるようにします。納期の24時間以内に完成品が顧客に届くよう実際出荷されたかチェックすれば、実際遅れるならそう分かるでしょう。
オペレーショナルなTOCのインプリメントではすべて、できるだけ早期にバッファ管理を実施すべきだと私は思います。このコントロール機構は、TOCによる変革には必須な部分ですが、移行期にはその価値が特に大きいのです。
戦略・戦術ツリー(S&T)の形式を使えば、「うまくいかないとしたら、それはどこか」という質問をモニターするエントリーを、下位の特定のレベルに組込むのは簡単です。問題が起きそうなエントリーの平行仮定(PA:Parallel Assumptions)には、監視すべきシグナルの一覧を入れると、よくできたS&Tツリーになるでしょう。
これら一連のシグナルのチェックは、移行期の仕事には必ず含まないといけません。おそらく、移行期間を過ぎたら、これら監視スキームの殆どは打ち切られるでしょう。
しかしそれでは、予期しなかった好ましくない結果の出現に対処できません。この種の問題に対処するに必要な一般的な行動指針は次のとおりです:
常に気を抜くな!
このような時期は、時に予期しないチャンスかもしれないが、予期しない問題が出現する可能性が高いことを、変革を推進するチャンピオンには、ハッキリ意識しておくことを強くお勧めしたい。それはいつでも起き得ますが、特に移行期にはその確率が高く、予想外なことが起きた事に気付かないと、その潜在的なダメージは極めて大きいのです。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。
この記事の原文: The role of the Transition Period in implementing a change