この記事は、ほぼTOCICOのウェビナーの内容に沿ったものです。私たちは、このテーマは、特に重要な問題で、様々なアプローチがあるのを発見しました。
人はしばしば互いにコラボレーションします。その格好の目的は、家族や仲間、イデオロギー、安全、仕事です。互いに信頼し合う人々のコラボレーションなら、ウイン・ウインの達成は容易です。長期間コラボレーションを継続するにはウイン・ウインが必要なのです。時には、信頼できない人々と協力しないといけない場合もあります。でも、それは互いに差し迫った必要性があって不信を克服せざるを得ないときです。
異なる組織でのコラボレーションはもっと困難です。「我社は、御社から買い、合意された価格と条件で代金を支払う」みたいなそっけない関係は、「コラボレーション」というより、むしろ「協力」です。組織の関係のほとんどに何らかの協力は必要ですが、何か成したい共通の目的(目標)があって、両者協力して行うことを成功させないといけない前提のコラボレーションは稀です。
組織間で「信頼」を維持するのは明らかに困難です。でも、特定の人を信頼するのは可能です。組織間の関係が何であれ人が対応するのですが、その人々が更迭させられたり、コラボレーションの精神に反す行動を強いられたりするかもしれない心配があるのも明らかです。
しかし、コラボレーションは、他方の収益を向上させると同時に、少なくとも一方に新たなチャンスへの門を開いて、望む決定的な競争力を生み出すことさえあり得るのです。競争相手とのコラボレーションは、他の競合に対する双方の地位を高める可能性があります。サプライチェーン内での垂直型のコラボレーションは、サプライチェーン全体を改善する可能性があり、サプライチェーンの構成要素すべてが効果的にコラボレーションすれば、全体として無敵の競争力を獲得するでしょう。
ですから、何よりも先にこれから開ける新たなチャンスがどんなものか見極め、どうすればコラボレーションを長く持続できるか分析して、普通によくある障害は克服しておかないといけません。
ということで、ここで重要な洞察は、コラボレーションは時にはうまくいくこともあり得るので、本当に良い結果を生むのはどういうときか、慎重に判断しなければならないということです。コラボレーションの重大な副作用は次の2つです:
- 特に組織の間だと、コラボレーションには、よい結果を台無しにするようなリスクがいくつかある。
- コラボレーションでは、マネージャーに相当の注意を払うこと(マネージメント・アテンション)が要求される。
大規模な建設プロジェクトの分野では、効果的なコラボレーションを実現するために多くの努力が払われている例が見られます。一般的な取引とそういう大規模なプロジェクトの基本的な構造の間で生じる根本的なジレンマに対処するために、「プロジェクト・アライアンス」とか、インテグレーテッド・プロジェクト・デリバリー(IPD)と呼ばれる方式が登場しました。
ここで問題は、発注者がプロジェクト全体の非常に詳細な計画を用意しないといけないことです。それは、入札に参加する業者がプロジェクト全体の応札額を見積もるために必要です。落札した元請業者・ゼネコンは、その後複数の下請け業者と契約できます。その後になると、業者には嬉しくても、発注者にはあまり嬉しくないのですが、何か間違いや追加の要件、漏れが見つかって、再交渉が行われるのが普通です。
実費清算(コストプラス)契約は、この種の再交渉を無くすために生まれたのですが、本当のコストが皆に公平に見えない限り、元の計画に上記の様な変更が出れば、発注者から必要以上にお金を絞り取れる絶好のチャンスになる現実は変わりません。発注者にしても、プロジェクトの本当のコストを査定するのは難しく、プロジェクトの品質と工期も保証しないといけないから、なおさら困難です。努力を積み重ねて発注者が非常に綿密に計画を立てたのに、間違いが見つかってさらに多くの変更が必要になってお手上げになれば、そんなプロジェクトを実行する苦痛は深刻になります。
受託業者からすれば、最初の入札段階では安すぎるくらい見積もりを抑えざるを得ず相当大きなリスクを負うので、満足な利益を確保するために変更で大きく稼ごうと思うのも仕方ありません。
この種の関係では悪い点が集約されて、互いにプロジェクトの成果に満足できません。いくら変更と再交渉をしようが、プロジェクトは長く時間がかかり過ぎるし、コストは大きく膨れ上がり、最終成果物の品質は期待よりも低くなるのが普通です。その根本的な不満がすべての業者の評判を傷をつけるのです。
業者ともっとオープンで前向きな対話ができたら、計画の立案と実行に業者をもっと関与させられるので、発注者には嬉しいはずです。大規模なプロジェクトの複雑性と不確実性に上手に対処するには、非常に効果的な方法です。とは言え、どんな解決策も、すべての業者に有益でなければなりません。どんなにやり方を変えても、ウイン・ウイン無しでは、うまくいかないのです。
コストに対する発注者の懸念と、利益に対する受託者の懸念は、どうやればプロジェクトの成功にも沿う形で解決できるでしょう?
プロジェクト・アライアンスの裏にある考え方は、2つの要素がベースになっています。
1つは、相互協力による努力の成果を最大限に引き出して大成功するという理解で、主な受託業者でプロジェクトの共同管理チームを作ることです。この仕組みは、元請業者1社がプロジェクト全体を管理し、複数の下請け業者を取り纏めるのとは違います。プロジェクト・アライアンスという仕組みの下では、アライアンスのメンバー間の合意形成は、活発なコラボレーションを通じて実現されなければなりません。その成果の一つは、様々異なるプロフェッショナル間の極めて優れた同期です。
2つ目は、プロジェクトの成功を規定する特定の評価指標で定義される、少数の選ばれた目標の達成に基づく、利益/苦労への対価を定めることです。アライアンスのメンバーへの報酬は、次の3つの部分から成っています:
- 実費 - メンバーがサプライヤーと自由契約者に実際支払った費用と、プロジェクト専従の従業員に支払った給与。
- メンバーの担当業務に対する定額報酬。この種のプロジェクトでは、定額部分は通常の見込利益より小さい。
- プロジェクト全体としての合意された成果測定に基づく変動報酬。定額報酬と変動報酬を合わせると、メンバーの利益は最終的に通常よりはるかに大きくなり得る。
変動報酬と定額報酬はコストに比例しません! コストとは独立に定められますが、評価指標の1つとして「プロジェクトの総コスト」を含めるかもしれません。この分離によって、簿外のコストを乗せて利益を水増そうとする受託業者の私心を排除します。また、受託範囲(スコープ)の価値が低下した場合の損害を取り除きます。この支払方法は「コスト-固定-変動」の頭文字を取って「CFV」と呼びます。TOC流に言えば、受託者それぞれのスループットは、定額報酬と変動報酬の和です。
プロジェクト・アライアンスは、開始から終了までのリードタイム、プロジェクトの総コスト、発注者の全般的満足度の点で特に大成功だったと思われる大規模プロジェクトのいくつかで採用されました。しかし、容易に予測できる好ましくない悪影響があるのに、世界中の大規模な建設プロジェクトの大部分は古いやり方のままです。上記で述べた解決の方向性を採用することに対する恐れを理解するために、潜在的に悪い副作用をいくつか挙げておきましょう:
- 経験が無いと特に、組織間の信頼は壊れやすいと思い込む。
- プロジェクトに責任を負う発注側組織の担当者は、プロジェクトで何をやるかすべてを指示する権限を奪われると感じるかもしれない。
- 受託業者は、短期的にはより多くお金を稼げるチャンスがあるとしても、本当は稼げたかもしれない額より低い変動報酬の業務提携に縛られたと気付いて、ジレンマに陥るかもしれない。
- 変動報酬で予算が不確定になるのは問題に見えるだろう。しかし、それよりも、大規模な建設プロジェクトは不確実性がずっと高いので、むしろお役所的仕事の問題かもしれない。
- 多くの発注者は、主に慣性と今の常識に逆らうのが怖くて、確定金額での入札以外の業者選定を不快に思っており、(稀だが)公式の手続きの中でそういう入札を求めるものもある。
もう一つ、コラボレーションで大きな価値が生まれる領域は、発注者の組織と少数のサプライヤーの取引関係です。B2Bでの通常の関係は、発注する組織が、欲しいものと仕様、品質、数量、納期、価格をサプライヤーに伝えるというものです。交渉するのは納期と価格です。顧客が何をどれだけ必要か知っているのがその前提です。殆どの場合この前提が有効です。もし最安値で購入したいなら、多くの場合、顧客は入札やコンペをしてもかまいません。
その他では、顧客とサプライヤーの間に長期間の良好な関係が構築され、双方のビジネスが成長し、ウイン・ウインが生まれるケースがあります。その殆んどでは、基本的な情報の流れは変わらず、何を、どれだけ、いつ欲しいかは、顧客からサプライヤーに伝えられるのが普通です。でも、長期に渡る排他的な契約なので、安定した供給とサプライヤーの安心が確保されます。
例は少ないですが、顧客とサプライヤーの本当のコラボレーションが、両方の組織を真に成長させ、「我社は何が欲しいかを伝え、御社は一般協定に定める工期と価格で、かつ、おおよそ年間消費量の最小量を我社に納入する」みたいな、よそよそしい関係ではとても達成できないような、新たなチャンスを生み出すこともあり得ます。
そういう稀なケースは非常に潜在性が高いのです。コラボレーションで、より広い需要が手に入り、より高い価格で売れる道が開かれたら、双方の組織にとって、いかにコストが増えようが、それを大幅に上回るスループット増加のチャンスが訪れるでしょう。また、長期のコラボレーションは、買う側の組織が購入手続きと書類を簡素化するのを助け、購入の全体的なコストを下げて、双方の利益増加に繋がるはずです。
どちらの組織も、相手に対して真に密なコラボレーションを提供することに、マネージメントがちゃんと注意を払わないといけません。それはパートナーシップと呼ぶべきものかもしれません。双方とも大きな利益を得る必要があります。継続的なコラボレーションの特徴の1つは、維持が難しい組織同士の信頼関係はもちろん、2つの組織の利害、価値観、文化全般のより深い理解です。実際、相手に対するそういう理解は、パートナーシップを成立させるには必要な要素です。なぜなら、相手の状況とその影響を理解できて初めて、コラボレーションが本当に有益なものになり、激しく競争し合う普通のアプローチよりも、はるかに優れているからです。
ゴールドラット博士は、サプライチェーンを構成するメンバーは皆、最終の製品が消費者に売れない限り、自分のものが本当に売れたことにならないという洞察に基づいて、サプライチェーン全体をパートナーシップ/コラボレーションで繋ぐことによって、市場の望むニーズに確実に素早く応えるというビジョンをすでに開発していました。その考え方は、サプライチェーンのメンバー間の個々の売買からスループットを切り離して、可能な限り高いスループットを確保するために皆をコラボレーションさせることでした。
このゴールドラット博士のビジョンには、複数のサプライチェーンとのパートナー関係がある場合のチェーン内のメンバー同士の利害の不一致など、取り除かないといけない悪い副作用がいくつかあります。サプライチェーン全体を通したコラボレーションには、応答時間の短縮や在庫削減だけでなく、より大きな市場を獲得し続けるための新製品の開発や既存製品の改良にも積極的に取り組む必要があります。
潜在的にどれほどのチャンスがあるか明確になれば、分析と革新的思考によって、上記のすべての困難を克服できます。特に中小の組織にとって、コラボレーションは、実質的な規模の拡大で能力とキャパシティを増強して、効果的な同期によって飛び抜けた競争力を獲得する手段です。ちゃんと考えてウイン・ウインを真ともに受け止めるなら、たとえマネージメント・アテンションが究極の制約として残り続けるとしても、潜在的な可能性に限界はありません。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。
この記事の原文: Collaboration, Win-Win and TOC