マルチタスキングがマルチプロジェクト環境に及ぼすダメージの大きさを認識したことは重要な洞察です。しかし、マルチタスキングが実際に害を与え始めるときの問題をもっと深く考えておいた方がよさそうです。
マルチタスキングとは、仕事の途中でタスクの間を行き来することです。このマルチタスキングにはいくつかの原因が考えられます:
- 優先度の高いタスクの出現 - 優先度の高いタスクが終わるまでは、そっちをやらざるを得ない。
- 大した進歩もなくタスクが行き詰まって、一時中断して何か別の仕事をやらざるを得なくなった。
- 同時に複数のタスクを実行して、どれも目に見える進捗をさせるのが当たり前と思われている。
被害が大きくなる可能性が高いマルチタスキングは3番目のタイプです。個人にやるべきタスクが複数あるとき、一つのやり方は、どれかひとつ着手しそれを終えたら次に進むことです。これを「キュー・プロセス」と呼んでおきましょう。もう一つは、あちこち摘み食いすることで、それがマルチタスキングの本質です。個人が複数のタスクをどうやって同時にやるかは、人により様々です。マネージャーは、上手にマルチタスキングすることがスキルとして求められます。実は、マルチタスキングで大きな被害を被るのは組織です。それに比べたら、個人は、プロジェクトや新しい企画が少々長引いても、そう大きな害はありません。組織に大きな痛手を与える遅れは、あるタスクの完了が長引くと、その後に続く別のリソースが行うタスクが、先行のタスクが終わるまで着手できないものだと、連鎖反応で遅れが伝播して生じます(訳注:人から人、プロジェクトからプロジェクトへと、連鎖反応で素早くかつ組織全体に拡散すること)。
製造では事実上マルチタスキングはありません! なぜなら、製造では、段取り替えを節約して、高価な設備(訳注:特にCCR)の高い稼働率を確保することに大きな価値があるので、「キュー・プロセス」が普通のやり方だからです。マルチタスキングすると段取り替えが増えます。なぜなら、元のタスクに戻る都度、元のスピードを取り戻すために何かやらないといけないからです。
マルチタスキングは、マルチプロジェクト環境で見られるものです。典型的なプロジェクトは金額が非常に高いのが普通なので、一刻も早くプロジェクトを終えることが求められます。ですから、プロジェクトはクリティカルチェーンに沿って止めずに進めなければなりません。プロジェクトに比べたら特別に高価なリソースではない人間が別の仕事で忙しいせいで、金額の高いプロジェクトが止まるのは耐え難いことです。しかし、重要な人的リソースのやることには、明確な優先順位を維持しないといけないので、問題が更にややこしくなります。たとえば、あるプロジェクトマネージャーにあなたのプロジェクトは他より優先順位が低いと伝えるのは苦労するが、まして、組織の調和を良く保つのはずっと難しい。
マルチタスキングがプロジェクトに及ぼす害から、2つの好ましくない結果が生じます:
- 多くの「段取り替え」によるキャパシティの浪費。
- プロジェクトを跨ってリソースがタスクを行き来することで、多くのプロジェクトが中断させられるせいで、多くのプロジェクトで非常に長い遅延が生じる。これは、他のタスクが完了した後でしか着手できないタスクを別のリソースが実行することが通常は多いという前提。つまり、次のタスクの着手を長く待たざるを得ないせいで、プロジェクト全体の完了が大幅に遅れる可能性が高い。(訳注:プロジェクト間にタスクの依存関係が無くても、人の依存のせいで遅れはプロジェクトを跨って伝播するということ)
上記の2番目は、ある一つのタスクの期間が延びたことによるドミノ効果で、プロジェクトのリードタイムには、驚くほど甚大な害が及ぶことを示すものです。
マルチタスキングは、新しい企画など通常の取り組みにも、そんなに大きな害を及ぼすのか?
プロジェクトと通常の取り組みは微妙に違います。プロジェクトは、始めたらできる限り早く実行する前提の計画です。通常の取り組みも、目的を達成するための一連のタスクがありますが、それらは間を空けずに連続実行するつもりのものではありません。通常の取り組みには決まった納期はなく、そもそもできる限り早く終えるのを期待されていません。通常の取り組みはプロジェクトのような緊急性はないのです!
とはいっても、仕掛り中の取り組みが余り多すぎると、キャパを使い尽くすマネージャーもでてくるでしょう!!!
そうなると、キャパシティの浪費の被害は甚大です。キャパシティを浪費する原因は、次の2つだということを忘れないでください:
- 価値の低い取り組みにキャパシティが浪費される。
- 最新の状況が報告される度に、複数の取り組みの間で頻繁な行き来(マルチタスキング)が生じて、時間を浪費する。
もしそうだとすれば、マネージメント・アテンション(マネージャーがちゃんと自分の仕事をするに必要なキャパシティ)が手に負えないボトルネックに変わって、本来は望む未来を実現する活動だったはずなのに、組織の成長を止めてしまいます。マネージメントの制約が現在の価値フロー(バリューチェーン)にも害を及ぼし始めると、会社が破綻しかねません。
マネージメント・アテンションがボトルネックになり始める状態を見極めるのは、決して簡単ではない。
人的リソースのキャパシティを測るのは非常に難しい。人は忙しくしていたい、少なくとも、忙しいと思われたいものです。これは効率第一主義の影響ですが、いつも活発でいたいという、多くの人々の個人的な必要性から生じたものでもあります。
マネージャーがいつも忙しくするのは簡単です。なぜなら、何かすることはいつでも見つかるからです。たとえば、部下の仕事ぶりをチェックしたり、本当は必要でない会議を招集したり、改善する必要がない何かを改善するアイデアを考えたりすればよいのです。
本当にマネージャーの負荷が高すぎるのか、ただ単に好きにして忙しくしているだけなのか、どうすれば分かるか?
人に本当に過剰な負荷がかかると、周囲の人々にも分かる兆候が現れます。あるときは、仕事の質が大幅に低下します。またあるときは、負荷の高いマネージャーが、一生懸命だが何も付加価値を生まない部下にしびれを切らすこともあります。そうでなければ、他の同僚とは重点が違うかもしれない個人的な優先順位に従って、少数の取り組みに専念しようとするマネージャーも居ます。
組織全体に正しいフォーカスを示すことこそ、TOCという方法論の決定的な競争力(DCE:Decisive Competitive Edge)のはずだ!
組織のフォーカスには、知っていないといけない2つの時間フレームがあります:
- 短期的には、制約それ自身と、その最大活用のプランおよびそれへの従属プロセスが、フォーカスを定める。
- 中・長期的には、戦略(将来より多く達成すための計画)によって、入念に練ったフォーカスを示さないとならない。そして、重要な取り組みはすべて、その戦略に含まれねばならない。
組織としては、潜在的な脅威を示す兆候を積極的に探すのはもちろん、そのどれが、中・長期的に究極の制約であるマネージメント・アテンションを消耗する恐れがあるか、見分けなければなりません。TOCが私たちに教えてくれるのは、マネージメント・アテンションというキャパシティをボトルネックにしないで、ちゃんと最大活用しなさいということです。それが、組織のゴール以上を達成するまでに至る、特定の目標(戦略)とそれらを達成するための取り組み(戦術)を目に見える形に描いた、詳細な戦略を構築する重要な理由です。とりもなおさず、この手ごわい使命を果たすには、S&Tツリーという書式がピッタリです。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。
この記事の原文: Multi-tasking and Management Attention as the Ultimate Constraint