今日のコンピュータパワーは、様々異なるアイデアが組織のパフォーマンスにどう影響するか、複雑性と不確実性両方を考慮して評価する新たな道を切り開きました。その必要性は、組織というものに対する一般的な認識と、高い不確実性にさらされる上に本質的に複雑な環境との組織の関わりから生じるものです。決めた時はどんなに正しく見えた決定も、容易にどれも非常に悪い結果になり得るのです。
TOCの柱の1本は、どの組織も根本はシンプルだという公理または信念です。不確実性が大きくても、組織のパフォーマンスを本当に制限している変数は、実はごく僅かしかないのです。
シミュレーションを使うと、一見複雑に見えるシステムとそれを上手にマネジメントできる比較的シンプルなルールとのギャップが埋まるかもしれません。つまり、内にあるシンプルさを暴露できるのです。その変化が内部の取組みの結果か外部の出来事の結果かに関わらず、変化する時代にはシンプルなルールの発見が特に価値が高いのです。
シミュレーションの使用で以下の2つの目的を達成できます:
- 特定の状況における因果関係とその状況への不確実性の影響を理解する。
その理解は、判断の如何で結果に大きな差が出るような選ばれた明確な環境の、一連のシミュレーションにより得られます。有効な教育的シミュレータは、ひとつの意思決定からその結果に至る明確な因果関係の流れの存在を証明するはずです。
アイデアやコンセプトの自己発見は、教育的シミュレータ固有のオプションです。それには、ロジックが実際の結果に明確に結びつく限り、様々異なる意思決定を許せる能力が必要になります。
- 特定の環境を詳細にシミュレートすることにより難しい意思決定を支援し、異なる選択肢を示す様々なパラメータをユーザーに指定してもらい、その結果の広がりをちゃんと把握できるようにする。ここでの課題は、本質的な複雑さは保ちつつ、パフォーマンスに本当に影響を与える重要な変数はすべて表現できるように、対象の環境をモデリングできること。
私がTOCの世界に入ったのは「マネージャーに考える方法を教える」のを目的とするコンピュータゲーム(OPTゲーム)の開発で、その後も引き続いて様々なシミュレーションを開発していました。そのシミュレータのほとんどはTOCを教教えるものでしたが、私は経営上の具体的な疑問に答えるのを目的とする特定の環境向けの2つのシミュレーションを開発しました。
今日のコンピュータは、様々な環境に対応でき、やがては非常に複雑な意思決定をサポートできる広範囲をカバーしたシミュレータの開発で絶対に力を発揮するほどパワーがあります。私の経験では、他が提供する汎用的なモジュールを使うと、使い物にならないほどシミュレーションが遅くなるので、そういうシミュレータの機能の基本ライブラリはゼロから開発しないといけません。マネージャーは、意思決定の多くを非常に素早く行わないとなりません。つまり、サポート情報は直ぐに使える状態にないといけません。効果的な意思決定支援ツールとして使えるワイドスコープ・シミュレーションには、速いことが重要な必要条件の1つです。
最も有名なTOCの専門家の1人Alan Barnard博士は、サプライチェーン全体のシミュレータの開発者でもあります。彼は、先ず第一に製品のフローを支えるTOCの新しい一般的ポリシーがちゃんと機能するのを保証するために、経営上のニーズを定義します。それ以外にも、適切なバッファサイズと補充時間のような、適切なパラメータを決めないといけませんが、それはシミュレーションで可能になります。
優れたワイドスコープ・シミュレータが支援できる種類の意思決定は、他にも多種多様あります。シミュレーションの基本的な機能は、サプライチェーン全体での製品のフロー、製造での部材のフロー、プロジェクトのフロー、お金の出入りのフローのような、フローを描写することです。シミュレートされるフローは、そのノード、ポリシー、そして不確実性によって特徴づけされます。意思決定をサポートできるには、相互作用する複数のフローをシミュレートできないといけません。製品のフロー、オーダーのフロー、キャッシュのフローおよびキャパシティ(購買のキャパ)のフローが一緒にシミュレートできない限り、ビジネス全体の本質を捉えることができないのです。シミュレータは、既存製品と競合する新しい製品のような新しいアイデアを簡単に組み込んで、十分速くシミュレートできる必要があります。そうすると、「もし~だったらどうなるか(what-if)」というシナリオを分析するために登場したこのプラットフォームは、新しいアイデアが最終損益に及ぼす影響をチェックするのに利用できます。
ゴールドラット博士が主張したように、多くの意思決定に関して、提案された変化・変革が最終損益に及ぼす影響を十分正確に予測できる能力は、根源にあるシンプルさにより与えられたものです。私が提案しているスループット経済学では、提案されたアイデアの組織の最終損益に対する悲観的と楽観的な貢献を計算することにより、新しいアイデアをチェックするプロセスを定義しています。最終的なΔT – ΔOEの予測は、売上とキャパシティの消費に及ぶトータルな影響をほぼ満足に計算する方法を見つけ出せるかどうかに掛かっています。(訳注:税前純利益の差分 = スループットの差分ΔT - 業務費用の差分ΔOE)
しかし、時には、リードタイムに影響したり、ランダムに起きたある事故が連鎖反応的に一連の事故を起こす「ドミノ効果」に直面したりするような、より広範な影響を伴う出来事やアイデアにも出会うことがあるので、もっと洗練された意思決定支援の方法が必要になります。新しいアイデアの潜在的な影響全部を予測しないといけないという、余分な複雑さは、新しいアイデアが原因の変化が有る場合と無い場合の2つの状況をシミュレートすれば解消できます。そのシミュレーションは、まともな計算が複雑すぎる場合の究極の救済手段です。
世界中の様々な場所に複数の製造拠点と輸送ライン、顧客、サプライヤを持つ、比較的大きな会社をシミュレートするとしましょう。このシミュレーションには、お金の取引とそのタイミングを含め、重要なフローがすべて含まれます。これは、市場、運用、エンジニアリング、供給に関する様々なアイデアを入念にレビューして、純利益に及ぶ影響を予測できるインフラを提供してくれます。予測の信頼性が高くなるので、新製品を市場に投入するときサプライチェーンの最初の目標在庫を高い精度で決定できます。意思決定はすべて悲観的と楽観的な仮定に基づいてテストすべきであり、そうすることで、経営者は、将来の市場における両極の複数の動きを考慮した上で、賢落込みは最小限に抑えつつ潜在的に高い利益はちゃんと掴み取れる解を探しながら、賢明な経営判断を下すことができるのです。
そういうシミュレーションは、外部で発生した出来事で組織の通常の業務が乱されたとき大きな助けになるでしょう。たとえば、サプライヤの1つが津波に襲われたとします。今後4週間は十分在庫がありますが、できるだけ早く代替策を見つけて、それら代替策各々について実行した場合の潜在的な損害を知らないといけません。そのような「what-if」シナリオのチェックは、上記のような種類のシミュレータを使えば簡単に実行できて、代替策各々の現実的な財務的影響が分かります。
様々なアイデアをチェックする大規模なシミュレーションが役に立つ他の大きな分野は航空業界と海運業です。輸送システムの運用での重要な問題は、車両など乗り物各々のキャパはもちろん、特定の時刻でのその正確な位置もそうです。遅延や故障はどれも、他のミッションやリソースにドミノ効果を生じさせます。新しい航路のオープンが経済的に望ましいかどうかチェックするには、そういうドミノ効果が与え得る影響も含まなければなりません。もちろん、飛行機や船が制約だとすれば、シミュレーションにより様々なシナリオをチェックする目的は、それを最大活用することです。設備利用効率管理(イールド・マネジメント)として知られる動的価格付け(ダイナミック・プライシング)向けの様々なオプションをチェックするのも、ひょっとして賢い使い方かもしれません。
確かに効果は大きくなるのですが、その限界にも注意しないといけません。シミュレーションはあくまで仮定に基づくもので、そこには巧妙な操作や単純な間違いが入り込む余地があるのです。2つの異なる種類の失敗の原因をちゃんと区別しましょう。
- パラメータ設定のバグとミス。つまり、シミュレーションソフトウェア内の不具合、またはシミュレーションに必要な重要なパラメータの誤入力。
- 本当の現実を捉えたモデリングの失敗。現実をそのままシミュレートするのは無理である。なぜなら、必要なパラメータが多すぎるからだ。したがって、現実を単純化し、パフォーマンスに大きな影響を与える、または特定の状況では影響を与える可能性が高いパラメータのみに絞らないといけない。たとえば、人間一人ひとりの詳細な行動をモデリングするのは気違いじみている。ただし、市場セグメントやサプライヤのグループなど、大きな人の集団の行動は把握しないといけないかもしれない。
様々異なる市場、特定のリソースやサプライヤの確率的行動のモデリングは、もうひとつの課題です。実際の確率関数が分からないと、特定の状況に確率関数が合わなくても、正規分布、ベータ-ポアソン・モデルのような一般的な数学関数を使う傾向があるのです。
ですから、シミュレーションは慎重にチェックすべきです。最初の大きな試練は、現状をちゃんと再現することです。本当に現状の振る舞いを示せますか? シミュレーションの結果と現状の現象を比較するには十分な直感とデータがないといけないので、これはシミュレーションを意思決定の支援に使う上で、必達のマイルストーンです。ほとんどの場合、最初のうちはバグや誤入力が原因の誤差が出るはずです。シミュレーションの結果が十分ロバストなものに見えるようになったら、一定の条件下でちゃんと将来のパフォーマンスを予測できるよう、より慎重なテストを行わないといけません。
そういうわけで、シミュレーションには注意すべきことが沢山あるのですが、不確実性の影響をより深く理解し、それにより組織のパフォーマンスを向上できれば、さらに大きな効果が得られます。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。
この記事の原文: The value organizations can get from computerized simulations