意思決定はすべて選択肢からの選択です。もう一つの重要な要素は結論を下す適切なタイミングです。マネージャーが即座に結論を下さないとならないようなことは、ほとんどありません。そもそも、まったく不意に脅威に襲われること自体が望ましくない状況です。ほとんどの意思決定は、決定者に十分な時間的余裕を残しているはずです。
相当不確実な状況下にあることから、決定事項を完全に遂行できるよう、最後の最後まで決定を遅らせることが示唆されます。その背後の仮定は、時間が経てば不確実性を低下させるような情報が加わるだろうという事です。
上記の主張の論理には深刻なマイナスの副作用があります。しかし、その提案がどこでうまくいかなくなる可能性があるかよく考えてみればすべて分かります。考えられるものをいくつか挙げておきます:
- 我々は実はその「最後の瞬間」の正確なタイミングを知らないので、我々それを見逃すかもしれない。
- 私たちは良いタイミングで判断するのを忘れるかもしれない。
- その大事な時期に、私たちの注意がもっと重要な問題に釘づけになっているかもしれない。
- 土壇場で決定するのは性急でストレスになる。そして、そのストレスの影響で私たちは判断を間違う可能性がある!
タイムバッファの発想で考えると、重要な意思決定はすべて所定の時間で終えなければならないミッションと考えて、そのミッション用のタイムバッファを割り当てるべきでしょう。タイムバッファに対するDBR(Drum Buffer Rope:ドラム・バッファ・ロープ)の解釈によれば、そのミッションはバッファより前に開始してはいけません。そもそも、タイムバッファは、正しい判断を下すことを除けば、他に何らストレスを生まずに、それ以外に注意を向けるべきすべての要求に応えられる十分な時間を提供するはずのものです。
個人やチームが行うミッションにタイムバッファを割当てて、その実行を制御するメカニズムとしてバッファ管理を使って管理することは、チェックリストよりもはるかに効果的なプロセスです。それは、バッファ管理の優先順位によってマルチタスクを削減し、ミッション、特に意思決定の早すぎる処理を抑えます。ただし、そのミッションには重要なタスクだけを含めるべきです。これは、マネージャー個人のキャパシティ(注力)の挙動を理解する上で大きな一歩です。また、それによって、ミッション(訳注:プロジェクト以外の普段の活動)とプロジェクトの区別の問題も明らかになるでしょう。
ひとつの例
ある業者との取引を止めて別の業者に切り替えることを検討中だとしましょう。既定の決定プロセスでは、今の業者とのトラブルに関する最新の情報を報告し、代替の業者を見つけて、その業者についての顧客の評価、特定の技能の有無、そして当然価格を調査することが要求されます。
上記の決定の期限はいつか?
現在の業者との契約は2016年12月31日に終了するとします。契約を延長する気がないなら12月1日までに公表するのが公平であり、新しい業者との契約を固めるにも十分な時間を残せます。そのミッションには、判断に必要な適切な情報を収集し、意思決定者にその情報を提供して、1~2時間で結論を出してもらうことが含まれます。このミッション全体の期間は3週間が妥当です。ということは、11月10日より前に誰もそのミッションを開始してはいけないことになります!
クリティカルな意思決定の影響
Goldratt博士曰く:「重要な事は決して切迫した状態にしてはならない。」
ここで実用的な教訓:重要な意思決定には適切なタイムバッファを割り当てるべきである。つまり、我々が「クリティカル」と呼ぶ非常に重要な意思決定は、切迫した状況で意思決定せずに済むように、より長いタイムバッファを割り当てるべきです。もちろん、クリティカルな決定は、実行可能な解決策がこれまで何も開発できてない悪い結果が起き得るため、非常にストレスが高い状況で判断する必要があるかも知れません。因みに、この記事では、時間の要素だけにフォーカスします。
ここで提案した解決方法は、TOCが生産現場向けに開発したものを、上記のような重要なミッションの責任を負う経営者や幹部マネージャーの仕事に拡張したものです。
要注意事項:こういうミッションは非常に小さく単純なプロジェクトと見なすこともできますが、プロジェクトに期待される動きとは違い、特に力クリティカルチェーン上のタスクのように、止めずに常に進捗させようとすべきものではありません。
意思決定の一括処理
意思決定の一括処理は、通常、定期的な企画会議という形で広く行われています。こういう時間周期に合わせて計画する傾向は、予測に基づく定期的な予算編成を考えるために関係する経営陣を招集する必要性から説明がつきます。そして、様々な部門の目標は、その定期的な計画から導かれます。
私は以前の記事で、ひとつの数字による予測とそれが如何に組織全体としてのパフォーマンスを低下させるかについて、私の否定的な見解を述べました。今回の私の焦点は、企画会議は、定期的な計画の目標とは直接関係ない意思決定を盛り込む「チャンス」になることを強調することです。
どんな計画も、特定の目標を達成するために相互接続した意思決定の組み合わせです。その計画は、少しでも逸脱したら目標の達成に影響を及ぼす意思決定だけを含むべきです。計画にバッファを組込む必要性を含むこのメッセージは、「良い計画とは? 計画と実行の関係」という以前の記事で説明しました。
次年度の予算範囲を決める年次の企画会議に業者の切り替えの決定を盛り込むのに納得いきますか? 新しい業者を決めることが、その高レベルな計画の品質に関わるほど重要ですか? 商品の総コストに業者の切り替えが小さな影響を及ぼすとしたら、早すぎる決断を強要する正当性がありますか?
ここで重要な点は、目標に非常に限定的な影響しか及ぼさない意思決定を計画に含めると、重要な目標の達成だけにフォーカスを絞らないとならない計画の品質を削ぐことです。それは特別な意思決定の品質を維持できないようなタイミングを強いるのです。
計画の立案、実行、正しいタイミングでの意思決定、これらはすべて、どこでもいつか起きる不確実性に対する対処の一部です。私たちは、何を事前の計画に含めるか、何を実行まで委ねるか、確実に適切なタイミングで行うことを含む、様々重要な意思決定すべての処理、それらを指示するプロセスを大幅に改善しなければなりません。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。