バッファ管理は、TOCで我々が今現在していることをはるかに越えた波及効果のある重要な洞察です。ここで重要な点は、正規分布あるいはベータ分布やガンマ分布といった、よく知られた数学的な分布では表わせない変動に対処するものだということです。つまり、バッファ管理は、変動が既知の形状のどれに従うか一切想定せず、計画立案でバッファのサイズをどう設定したかにも依存しない、純粋な制御メカニズムを提供します。
卓越したアベイラビリティを約束したり、受注生産やプロジェクトの納期を確実に守るために、我々は不可分な要素として計画にバッファを挿入します。しかし、本当に「最適な」バッファのサイズを決めるのは無理です。実際、市場に対する約束を守るのに「最適」という言葉を使うのに私は違和感を感じます。需要、供給または実行の変動が実際どうなるか、まったく分かりません。過去の履歴を調べても不十分です。なぜなら、3つの変数(需要、供給、実行)の変動が組み合わさった影響を知る必要がある上に、その3つの変数は、変動の基本的なパラメータさえ変わるかもしれない非常に大きな変化にさらされているからです。たとえば、新しい競争相手や新製品の登場または販売キャンペーンは、需要に相当大きな即時的影響を及ぼします。供給は、余剰キャパシティの大きさに左右され、キャパシティが不足すれば影響は甚大です。また、実行の進捗具合は、新しい従業員が入ったり、新しいマネージャーに代わったりする度に変化します。
バッファ管理の狙いは次の2つです:
- 少し変動しても遅れる「遅延寸前」のオーダーを検出すること。レッドゾーン警告が出たら、我々はそのオーダーの優先順位を高くして、時には特別な手段で督促すればよい。
- 3つの変数の変動が結合した影響を調べて、バッファサイズの大雑把な妥当性を確認すること! つまり、「過剰なレッドオーダー」と「過剰なグリーンオーダー」は、バッファサイズの変更の必要性を示す警告として使うということ。
どうか忘れないでください。市場に対する約束の第一の保護手段は、バッファであることに変わりありません! 警告と督促は、あくまで市場に対する約束を守る手段の選択の自由を高める補助手段です。
そうだとすると、レッドゾーンの「正しい」サイズっていったい何でしょう? 予測、キャパシティまたはリードタイムを根拠にして、レッドゾーンのサイズをどう計算しても、何も新しい恩恵が無いなら害になるだけです。その正当性を吟味するには、次の質問に答えないといけません:
仮にレッドゾーンが少し大き過ぎたら、どんな害があるのか?
仮にレッドゾーンが少し小さ過ぎたら、どんな害があるのか?
私の仮定は、私がいるのは決して架空の最適点ではないということです。レッドゾーンが幾分大き目でも、ほんのちょっと早目に警報が出るだけで、正しい優先順位を示しているのに変わりはなく、少しも害にならないことに、同意してもらえませんか?
そう考えると、バッファの3分1とするのは絶妙な案です。なぜなら、それは簡単かつ効果的で、大体の傾向として必要な大きさより多少大き目だからです。我々は正確ではあり得ないし、計画立案に使うデータとバッファ管理は分離すべきだという、実際の結果をちょっと見て分かる事実認識から、この考え方のシンプルさは正しいと分かります。
因みに、レッドゾーンが大き過ぎることで考えられる害の一つは、レッドオーダーが多すぎる現象が頻繁に観察されるのに、市場に対する約束の遵守は非常に良好に思えるときです。私の本Supply Chain Management at Warp Speed(Bill Dettmer氏、Wayne Patterson氏との共著)では、3分1では大き過ぎる比較的稀な環境の例をひとつ挙げました。そして、その例ではバッファの6分1にしたらどうかと私は提案しました。そうして、赤バッファの割合を計算してみたら、ひとつは27%、もう一つは23.9%、また別のSKUでは31.2%もあって、私にはなにか害が出ているように思えましたが、それはただ単に警告がおそらく多少遅いせいではなく、有効なロジックが何か欠けていたからでした!
まだ他にも考えないといけないものがるのです。SDBR(Simplified-DBR)には、絶対欠かせないツールとして、1つ以上のクリティカルなリソース各々の計画負荷(Planned-Load)があります。この計画負荷は、短期的に見たキャパシティが、仕掛り中の在庫バッファの補充オーダーまたは未納の受注オーダーの納期を守るのに、十分かどうかを確認するための補完的な制御メカニズムです。データが十分正しければ、システム全体を揺るがすような状況になる危険性を、まだ余裕が十分ある内に知らせます。分かり易く言えば、「レッドオーダーが多すぎる」という警告は必ず出ますが、その時すでに問題を解決する時間が殆ど無くなっている可能性があるのです! さらに、計画負荷は、個別受注生産の「安全な納期」を決めるにも非常に有効なので、計画と実行両方に使えるツールです。私が思うには、計画負荷は、会社としての約束を安定的に履行するには、欠くべからざる必須の要素です。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。