【ブログVol.3】「日常的で避けられない不確実性」にまつわる問題

マネージャーがすべき意思決定すべてにリスクがあるかといえば、必ずしもそうではなくて、深刻な損失を被るものもあれば、相当の利益が得られるものもあります。実際そんなリスクが大きな意思決定は非常に稀です。私がいつも言うように、大部分の組織はマネージャーを過度に保守的になるよう仕向けていますが、「日常的で避け得ない不確実性」に対する間違った対処方針で被る巨額な損失に比べたら、その人々が行う意思決定による損失は取るに足りません。

たとえば、CCPM(TOCのプロジェクト管理向けソリューション)を見て、プロジェクトに目に見える明確なバッファを加えるという、プロジェクトバッファの考え方が、どれほど劇的に新しい知見か、自分なりに考えてみてください。そもそも、タスクの期間は明確に定まると人々が言い張るのはなぜでしょう?

ゴールドラット博士は、組織というものは不確かなのに無理やり確かさを装わせる、とよく言っていました。 

確かさをごり押して、経営者とマネージャーが不確実性の悪影響を増幅しているのは、なんとも皮肉です。私たちは、時間がかかり過ぎるプロジェクトや、過剰な仕掛かりの処理に追われる製造現場をよく見かけます。組織の多くは、相対的に安いリソースである人手不足に苦しんでいるのです。

ここで共通する原因は、人間のマネージャーなら誰もが感じる「無駄」に捨てているという非難への恐れです。

私が挙げたい最たる例は、実は誤用ですが、売上予測の使用です。不確実な変数を記述するには、最低2つの数字、通常、平均値と標準偏差が必要だと、確率論や統計学で学びました。しかし、意思決定に用いる様々な予測レポートの大半は、単一の数字しか含んでいません。

因みに、測定値の分散が示されない一点予測にどんな価値があるのでしょう? たとえば、製品-134の翌月の売上予測が10,000だとして、実際の売上が4,776、8,224、13,004あるいは18,559になる確率はどれくらいですか?

10,000という特別な数字の出所が担当営業の見積もりだとしたら、それは推定平均(数学で言う期待値)なのは明らかですよね? 未来を見通す魔力のない営業マンが自分に都合のよい数字を言っているのではありませんか? 予測を根拠にした売上目標の達成で評価されるなら、彼らは見積もりを下げるでしょう。反対に、アベイラビリティを保証するための生産が求められるなら、見積もりを膨らませるでしょう。

結局、予測なしでは組織を経営できないのだと私は思います!

私は、動的バッファ管理(DBM:Dynamic-Buffer-Management)にしても、売上と在庫を見比べて、在庫バッファがおおよそ適正か否かを予測するものだと思っています。

しかし、単一の数字を予測として使うのは致命的な間違いです。単一の数字に頼ると、経営トップは営業と製造現場を評価できるでしょうが、その評価は間違いが多く、営業と現場のマネージャーは経営トップの無知から自分の身を守らなければならなくなります。

どこにもあって避け得ない不確実性への対処を間違えば、全体への影響は甚大です。経営者やマネージャーが保護能力の必要性を理解せずに高い「効率」を要求すれば、価値を生むか否かに関わらず、人は「何かやること」を探し出して、常に忙しい振りをするでしょう。

しかし、一時的な需要のピークだけでなくマーフィーにも対処できる十分な柔軟性を保持しておくには、本当に保護能力(Protective capacity)が必要なのです。とは言え、TOCのバッファは、フローを安定させ全体のパフォーマンスを改善するのに大きな効果を発揮しますが、自分だけが使う隠れたバッファを使って甚大な損失を被らせる領域まで全部面倒みるのはできません。たとえば、採用では、学習能力ではなく技術的適正を100%求める、おかしな採用条件に根本的な間違いがあり、予算編成では適正な予備費が全く無いという問題があります。また、複数の市場セグメントで存在感を維持する必要性すら、多くの組織は十分に理解していません。

不確実性への対処の仕方、特に、日常的で避け難い不確実性にうまく対処する方法を学ぶのは可能なのでしょうか? 大半のマネージャーは基本的な統計学は学んでいます。しかし、それは、ガウス分布(正規分布)とはまったく違い、明確な確率分布を持たず、短期間に似たことが稀にしか起きない不確実性に対処できるようにはしてくれません。

本質的に避け得ない不確実性とうまく付き合えるポリシーに改めるのを邪魔する本当の障害は、「最適な意思決定」という幻想を捨てて「十分よい意思決定」に置き換え、不確実性と依存性両方に晒される不確かな数字で人を評価するのを止められるかどうかです。

どうですか、やれますか? 私が思うには、それがTOCそのものです。


著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。

この記事の原文: The problems with “Common and Expected Uncertainty”

全ての記事: http://japan-toc-association.org/blog/