制約と中核問題(Core Problem)の違い
組織で働くマネージャーとコンサルタントは皆、常に、このタイトルの疑問を自問自答すべきです。また、この疑問は、組織のゴール(目標)にフォーカスを当てたものです。ですから、その問いに答えるには、現時点で組織全体のパフォーマンスを制限している、相対的に一番弱いところを見つけないといけません。
まったく間違いですがよく聞くのは、「業績の限界を決めている要因は沢山ある…」という答えです。 たとえば、もしCEOがもっと賢くて、規制が緩く、経済的に支出を十分賄え、且つ、競合の動きが我々より非効率だとするなら、我々の組織の業績はもっと伸びるはずだと言う。しかし、その各々のインパクトは仮に有っても非常に限定的です。ですので、そういう漠とした答えをするのは、元々の疑問それ自体に答えないだけでなく、何故今までその重大な制限因子を大きく改善する行動を全くしなかったか説明することからも逃げているのです。
全般的に言うと、TOCにはこの問いに対する答えが2つあります。
その1つの答えは、顧客に提供する製品/サービス/価値のフローを今現在制限しているものを探すことです。TOCではそれを「制約」と呼びます。 もうひとつの答えは、Xを行うのが絶対必要だが、Yを行うのも絶対必要で、その両方を同時に実行するのは極めて難しいに違いない実務上重大な内部対立(ジレンマ)を探すことです。それら重大な対立の大半を引き起こす源になっている最たる対立(あるいはジレンマ)は、組織全体としてのパフォーマンスを阻害している「中核問題」が表面化したものです。
では、制約と中核問題の違いを理解するために、次の例を考えてみましょう:
Auto-One社は国内の自動車メーカーである。実際には、Auto-One社は外国の有名な国際企業が設計した車を組み立てているだけだ。政府の支援を受けたそのアイデアは、高い輸入車を買う余裕のない人々に安い車を提供することだった。そういうわけで、組み立てた車は違うブランド名で売っているが、元の車のレプリカなのは皆気づいている。元のメーカーの品質が高いというイメージがあるので、元のブランド名で同じ車が相当数輸入されているが、国内生産車より価格が30%高い。
Auto-One社は、元のメーカーから部品を購入し、ライセンス生産の契約金を支払っている。その会社は、内部的に組立ラインのキャパシティに制約されており、新車の供給リードタイムが6カ月以上になっている。安い車の方を買いたい有望顧客の中には、長い間待たされるのが嫌で、結局輸入車を買う人も結構多くいる。
Auto-One社の制約は何でしょう? それを特定したら、どんな改善につながりますか?
中核問題は何でしょう? それを特定したら、どんな改善につながりますか?
問題の国内自動車メーカーについての、上記の簡単な説明には、以下を推測するに十分な情報があります:
- 組立ラインの稼働率の向上で、自動車の生産スピードがアップし、供給リードタイムが短縮する。有望な買い手を締め出しているのは現在の長い供給リードタイムなのだから、それを実現すれば、売上/スループットが増加し、スループットの増加で純利益が増加する。
- 生産ラインの稼働率の向上には、多額の投資と業務費用の増加は不要だと仮定してよい。
- また、上記の仮定は、組織として制約を正式に認めて、それを最大活用し、その活用プランに他のすべてを従属させる、その結果、レスポンスが速まり、完成車の数が増加するという、一連のステップを実行するTOCの方法論に基づいている。(訳注:いきなり投資しないで、先ず現有のリソースで制約を最大活用するという考え方)
- もう一つの方法は組立ラインのキャパシティを大きくすること。しかしこれは、TOCの方法論に従って組立ラインのキャパシティを既に最大活用しており、以前よりレスポンスが速くなったにも関わらず、未だに供給リードタイムが長くて、顧客を取りこぼしているということなら、理に適った方法である。(訳注:生産ラインのキャパを大きくすれば、スループットが大きくなるのかという観点)
- 組立ラインが24時間365日無休稼動してない場合は、シフトの追加が初歩的なキャパ増強策。しかしそれには増員が必要になる。したがって望まれる条件は、増員コスト(ΔOE)がスループットの増加(ΔT)よりずっと小さいこと。
- 最大活用と従属のステップの段階で既に組立ラインが24時間365日無休で稼動している場合は、組立ライン内にある特定の制約工程を強化しなければならない。
- これらとは大きく異なるアプローチは、品質が低いと思われていることを重大な制限因子と見なすことである。市場の価値認識を高めても、組立ラインのキャパシティを増強しない限り、販売台数は増やせないかもしれない。しかし、国内生産車の価格を高くできる可能性が高まる。
- 確認しないといけない疑問: 国内生産車の品質は、本当に輸入車の品質より低いのか?
- もう1つの疑問は、潜在的な顧客の認識を変えるためにマーケティングとして何かできることはないのかということ。本当に品質が劣っているなら、それは1つの課題だ。品質に対する認知が低いだけなら、それはまた別の課題である。ここで理解しておかないといけないのは、品質向上の努力だけでは売上を伸ばすには不十分だということだ。
制約とは、現時点で顧客に届くまでの価値のフローを制限しているものです。つまり、その制約がフローの直接的なレバレッジポイントです。言い方を変えれば、その制約を最大限に活用し、組織の残りの部分をその活用プランに従属させればよいのです。因みに、この制約の最大活用は、短期にフォーカスしたアプローチです。
我々には、この国内メーカーの今の制約は、組立ラインだと分かっています。ですから、そのキャパシティ制約(Capacity Constraint)からもっと多くの成果を生み出す、つまり、月々の生産台数を増やすのは、容易に解決可能な問題です。
一方、中核問題の方は、品質が低いという市場の認識と、会社がその問題にうまく対処しようとするのを邪魔する要因を、論理的に結び付けるものでなければなりません。それに、組立ラインのキャパシティ不足が原因の長すぎる供給リードタイムのせいで、獲得できる市場の需要を取りこぼしているという、もう一つ好ましくない結果(UDE:Undesired-Effect)があります。ですから、「満たされていない市場の需要を放置したままで、なぜ内部にキャパシティ制約がある状態にしておくのか?」という疑問にも、その中核問題は答えられるものでなければいけません。
制約を強化するステップになると、もう分かりきった重大な懸念はこれです: 強化するための投資は、経済的に見合うものなのか?
あらゆる組織の究極の制約は市場の需要です。価値に対する市場の認識は、内部のキャパシティ制約がアクティブなときでも、その時々の価値を制限します。このブログの以前の記事「短期と長期のTOCあるいは2つの重要なフロー」で、その話題に関してもっと深い考察が述べてあります。
品質が劣っているという市場の認識への対処はリスクを伴います。今の例では、キャパシティを増強すれば販売台数も増えるのはまず間違いないが、唯一の懸念は、十分高い投資対効果が得られるほど売上が伸びるかどうかです。とにかく、大衆のイメージを変えようとすると成功する保証は全くありません。かといって、品質が低いという印象を変えずに、価格だけ高くしようとするのは無茶です。
では、中核問題は何だろう?
事業を成長させるための投資が必要なときは、失敗するのではないかという強い不安が常に付きまといます。投資の失敗による損失が引き起こす極めて好ましくない結果(UDE)は2つあります。
第1のUDEは、現状を維持して、現状よりも悪化させないことへの組織の執着です。一時的でも現状が悪化するのは、内部と株主どちらにも強い懸念なのです。
もう一つの心配事は、CEOとその企画を提案した人の個人的な懸念です。失敗したということは、決定に関わった個人に重大な悪影響が及んで、キャリアが危うくなるということです。
経営陣が品質が低いという市場の評判を覆そうとせず、キャパシティ増強の明確なプランも無いとすれば、その会社の中核問題は、資金と労力を投じて事業(会社)の現状を大きく改善するか、それとも現状より悪化させないよう大きなリスクは犯さないか、その2つの間の長年未解決の対立だろうと思ってよいでしょう。これはどこにもある中核問題です。
この対立は、「クラウド(対立解消図)」と呼ぶTOC流の対立表現を使うと、次のようになります:
この例では、業績を伸ばせる2つの方法を提起しています。1つは、まずキャパシティ制約を最大活用して、それを終えてから制約を強化することです。もう1つは、品質に対する市場の認識を改善してから、国内で組立てた車に対する市場の価値認識を高めることです。
制約を強化するとなると、お金と労力(マネジメント・アテンション)を要す取り組みになるので、長い時間が必要なのは分かりきっています。極めて高い不確実性を計算に入れないとならないときは、売上拡大を狙った投資判断は非常に難しく、中々決めらないことが中核問題です。
対立の解消、つまりこの中核問題の克服は、上記のクラウドの要素各々の裏にある基本的な仮定を、1つ以上覆さない限り実現できません。そこで大きな障害は、普通は競争相手も皆同じですが、組織の幹部全員が共有する隠れた仮定(訳注:皆が正しいと信じていること)を曝け出さないといけない事です。
たとえば、上記のクラウドの下段は、新たに大きな投資をしなければ、組織の現状を悪くする大きなリスクはないと仮定しています。しかし、国内経済のいかなる変化も需要に悪い影響を与え得るので、通常これは間違った仮定です。
国内で組立て生産する自動車メーカーの話しに戻ると、元のメーカーが価格を下げたり、もっと安いモデルを投入したりで、国内市場の競争を激化させるような恐ろしい変化も起こり得ます。
下段の背後にあるもう一つの仮定は、投資はすべて非常に危険だというものです。不確実な意思決定をチェックする優れたプロセスを導入することで、ステップをひとつ実行する都度効果を注意深く観察しつつ、段階的に投資すれば、その仮定が覆されて対立が解消するかもしれません。大きくブレークスルーする絶好のチャンスを逃がさず、且つ、現状を著しく損なうこともないように、十分注意を払うことは可能なのです。
提案された企画のリスクと業績が伸びないリスクの両方を認識することは、価値ある第一歩です。小さなリスクは冒す覚悟すると同時に、潜在的なリスクを減らす良い解を探し出すという挑戦が、この中核問題を解決する方向性ではないでしょうか。ゴールドラット博士のチェンジ・マトリックスをベースにAlan Barnard博士が最近開発したテクニックでは、良い解を思いつく発想に人を導く実務的な質問を上手に述べた、一種の二重対立図を提案しています。(訳注:https://dralanbarnard.com/proconcloud/)
中核問題は、現実をじっと見て、長く当然だと思われてきた仮定に挑もうとする経営者を邪魔するものです。それに対して、制約は、より直近の問題であり、我々はもっとずっと良い結果を達成し得ることを、我々自身で証明するのが有効です。一方、安心できる組織の未来を描くには、中核問題に面と立ち向かい、我々の快適ゾーンに根づいた前提に必死で挑戦し、第一に不確実性に対する我々自身の恐怖に打ち勝たないとダメです。
著者:エリ・シュラーゲンハイム
飽くなき挑戦心こそが私の人生をより興味深いものにしてくれます。私は組織が不確実性を無視しているのを見ると心配でたまりませんし、またそのようなリーダーに盲目的に従っている人々を理解することができません。